第一話 (全二話)｜ハーロックの投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

共感で繋がるSNS

投稿

ハーロック

2025/12/20

第一話 (全二話)

夜のコンビニの蛍光灯は、やけに白かった

男は、レジ横の鏡みたいなガラスに映る自分を見て、目を逸らした

「……ブサイク」

口に出した瞬間、胸の奥が少し軽くなる
この呪文を唱えると、全部が説明できるからだ

彼女ができない
誘われない
視線が合ってもすぐ逸らされる気がする
会話が続かない
笑いも取れない

――全部、顔のせい

そう思えば楽だった
努力なんて無駄だと決められる
傷つかずに済む
負けたことにしなくて済む

男は、弁当をカゴに入れた

そのときだった

「自分、それ一番ダサい負け方やで」

背後から、低い声がした

振り向くと、黒い服の男が立っていた。
コンビニの入口の自動ドアの前
いつからそこにいたのか分からないのに
そこにいるのが自然に感じる

「……誰だよ」

「ワシはただの通りすがりや
で、自分いま、"顔が悪いから無理”って言うてたな」

男は舌打ちした

「放っといてくれよ、事実だろ」

「それ、事実やない
“便利な言い訳”や」

男の眉が跳ねた

「何がだよ、俺は不細工なんだ
性格も暗いし、そりゃ無理だろ」

黒い服の男は、レジ横の小さな窓から外を見た
夜の道路を、人が歩いている

カップル
家族
友達同士
ひとりで歩く人

「自分、外見の良し悪しで世の中が決まるんやったら
今この街におる家族の半分は存在してへんで」

男は黙った

黒い服の男は続ける

「一人一人に両親がおる
その両親が全員、美男美女か？ちゃうやろ」

「つまりな」

男は、短く言った

「“見た目が良くないから彼女できない”は、理屈として破綻しとる」

男の喉が鳴った

「……でも現実に俺はできてない」

「せや、現実はこうや」

黒い服の男は、少しだけ声を低くした

「自分は“彼女ができない”んやなくて
“行動せん”だけや」

「は？」

「ほら出た
自分、今“顔の話”から逃げて“心の話”にすり替えようとしてるやろ」

男は苛立った

「心の話って何だよ」

「自分が毎日唱えとる呪文や」

黒い服の男は、男の顔を真正面から見た

「『どうせ無理』
『俺なんか』
『努力しても無駄』」

「これ、何のために言うとる？」

男は答えられない。

「答え、ワシが言うたるわ」

男は指を一本立てた

「挑戦せえへんためや」

「傷つくのが怖い
断られるのが怖い
気まずくなるのが怖い
せやから“顔のせい”って看板立てて
その裏に隠れとるだけや」

男は拳を握った

「……俺の何が分かる」

黒い服の男は笑わなかった

「分かるで
ワシはな、自分みたいな男をぎょうさん見てきた」

#希望 #自作小説