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ハーロック

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第一話 (全三話)


夜店の提灯が、やけに明るく見えた

金魚すくいの水面が揺れて、焼きそばの匂いが漂う
本当なら、楽しい夜のはずだった

彼は、彼女の少し前を歩いていた
背は高くも低くもない
特別強そうにも、弱そうにも見えない、ごく普通の青年

その時だった
肩がぶつかっただの、目つきが気に食わないだの
そんな理由にもならない理由で、チンピラが三人、絡んできた

酒の匂い
無駄に大きな声
距離の詰め方

彼は一瞬で理解した
――これは、勝ち負けの話じゃない

拳が飛んだ
頬が焼けるように痛んだ
彼女が、息を呑むのが分かった

彼は、反射的に一歩前に出て
それから、頭を下げた

「すみません、こちらが悪かったです」

ざわつく夜店
周囲の視線
三人は、拍子抜けしたように笑い
「つまんねえ男だな」と吐き捨てて、去っていった

――終わった

彼は、彼女の方を振り返った

でも、その瞬間に分かった
これは、終わっていなかった

彼女の目は、怒りと失望で、冷たく光っていた

「……情けない」

低い声だった
けれど、刃物みたいに鋭かった

「男でしょ?
なんで戦わないの?
殴り返さないの?」

彼は、何も言わなかった
言えなかった

――ここで説明したら
――きっと“言い訳”になる

帰り道、二人の間に言葉はなかった
屋台の灯りが遠ざかるたびに
彼女の背中が、少しずつ遠くなる気がした

その時だった

「自分、今のままやと、一生伝わらんで」

どこからともなく、低い声がした

彼女が振り向くと
黒い服を着た男が、夜店の外れに立っていた
提灯の影に溶けるような姿

「……誰?」

「ワシか?
ワシは、今の状況が“ようある勘違い”やから、口出しに来ただけや」

彼女は、苛立ちを隠さなかった

「勘違い?
あの人、殴られて頭下げたんですよ
どう見ても、弱いじゃないですか」

男は、彼を一瞥した
腫れた頬
拳を握りしめる癖
それでも、彼女の隣を一歩も離れなかった立ち姿

「ほな聞くで」

男は、静かに言った

「自分、
あの場で一番守らなあかんもんは、何やと思う?」


#希望 #自作小説
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コメント

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1 GRAVITY

物語の展開が目を引くグラ!心情描写も深くて、続きが気になるグラね。

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