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ハーロック

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第二話 (全二話)

男は鼻をふん、と鳴らした。

「アホやな、自分
スマホ売る時、客の表情見て
話しかけ方変えて、言葉の選び方も変えとったやろ
あれな、立派な才能やで
はやりのAIにはできひん、人の心を扱う才能や」

美咲は目を瞬いた
男は食べ終わったロールケーキの袋を丸めて、自分の横に置いた

「結婚てな、相手選びももちろん大事やけど
一番大事なんは『自分をどう使って生きるか』や
寿退社したら才能消えると思っとるなら
それはちゃうで、消えるんやなくて、使い道が変わるだけや」

「使い道……?」

「せや、家庭っちゅうのはな、毎日ちょっとずつ誰かを大事にする場所や
銀行員の彼は、数字で人を守っとる
自分は、人の気持ちを察して守るんや
役割が違うだけで、価値は同じなんやで」

男はぽん、と彼女の頭を大ざっぱに撫でた
その手つきは乱暴なのに、なぜか温かいと彼女は感じだ

「それにな、自分
結婚に不安があるんは、愛してへんからやなくて、ちゃんと未来を考えてる証拠や
ほんまに何も考えてへんやつは、不安すら感じへん」

美咲の胸の奥で、じんわりと何かがほどけていく

「そやのに、自分ゆうべからずっと辛気臭い顔して、ずっとそんな顔しとったら百年の恋も……、痛っ、痛てて、耳、耳ひっぱるなや」

「誰が辛気臭い顔してるのよ」

彼女は言葉とは裏腹に、笑顔でそう言った

「自分、見かけによらず凶暴やな
そや、その笑顔でええんやで」

「私、まだ怖いけど、でも……逃げたいわけじゃないんです
ただ、ちゃんと自分で選びたいだけで」

「なんや、ちゃんとわかってるやないか
それでええねん、怖いまま選んだらええ
結婚はな、完璧な人間と暮らすもんやない
『不安を抱えたまま、それでも一緒にいたい』いう二人が暮らすもんや」

その言葉が胸に落ちた瞬間、涙が熱くあふれた

男はなぜか慌てて袋を探し始めた

「お、おい泣くなや
ワシ、そういう空気は苦手やねん
ほら、ロールケーキやるさかい
って、もう全部食べてしもたわ」

「いらないですよ!」

涙と笑いが同時に込みあげ、美咲は思わず声を上げて笑った

男はふんぞり返って腕を組み
にやりとした

「自分ほんま、ええ笑顔するなぁ」

彼女は嬉しそうに、男に向き直った

「ええか、よう聞きや
大切なこと教えたる
恋と愛は、違うんやで
恋言うんは、自分本位なんや
自分を好きになって欲しい
恋人になって欲しい
自分を見て欲しい
それが、恋や
せやけど、愛は違うねん
愛は、相手を思う気持ちやからな
相手を心配したり
相手の幸せを願ったり
それが愛やねん
ほんでな、恋は自分だけの気持ちやけど
愛は、二人で育むもんなんやで」

彼女は驚いたように目を見開き
優しい笑顔で頷いた

「ほな起きる時間やで
現実でもその顔、見せてやれや
未来の旦那も、きっと安心するで」

世界がふわりと揺れ、彼女の視界は白くかすんだ

目を開けると、自分の部屋にいた
胸のざわつきはまだ残っている
けれど、その奥に、小さくて確かな温かさも灯っていた

怖いままでいい……
それでも、選ぶ

彼女はベッドの中で大きく深呼吸をして
未来へ向けて、ゆっくりと身体を起こした


#希望 #自作小説
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コメント

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温かい物語グラね!未来への勇気を持つ美咲の姿が心に響いたグラ。愛と恋の違いの話も深いグラ。素敵な作品グラ!

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