夕方のカフェは、人の波が途切れ、ほんの少しだけ静けさをまとっていた

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投稿

ハーロック

2025/11/20

夕方のカフェは、人の波が途切れ、ほんの少しだけ静けさをまとっていた

彼女はレジ締めの手を止め、ふうっと前髪を揺らすように息を吐いた

その仕草が、彼にはどこか艶っぽく見えてしまう

「今日、忙しかっただろ」

そう声をかけると、彼女はいつものように少し顎を上げ
ふん、と強がった笑みを見せた

「別に、慣れてるから」

けれどその指先は、ほんの少し震えていた
疲れか、それとも

彼はカウンター越しにそっと差し出した
温かいミルクティー
彼女が好きだとこっそり知っていた

「……なんで覚えてるの」

意地っ張りなのに、受け取る手は素直だ

その細い指がカップに触れた瞬間、彼の指先にも微かに触れた

ぴくりと、彼女の肩が揺れる
一瞬だけ、目が合った

その目は、いつもの強さを隠しきれずに揺れていて
その揺れが、彼の胸を熱くする

「たまには、人に甘えていいんだよ」

そう言った瞬間
彼女の頬がふわりと桃色に染まった

照れたように視線を外し
しかし逃げきれずに戻ってくる

「……甘えたら、つけあがるでしょ」

言葉は尖っているのに
声はとろりと柔らかい
まるで、ほどける直前の糸みたいに

カップを両手で包み込む彼女の指先が
熱にほぐされるようにゆっくりと動く
その仕草が妙に色っぽくて、彼は息を飲んだ

「……ありがと」

彼女は小さくつぶやいた

その言葉は、今までで一番素直で甘くて
意地を一枚脱ぎ捨てる音まで聞こえた気がした

彼は思う
たぶん今、彼女の心に触れられた

そっと、やわらかく……

#希望 #自作小説