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天雲🌧-アマクモ-
古い煉瓦造りのアパートの一室で、パティシエ見習いの青年、ハルは、今日もオーブンと格闘していた。彼の夢は、いつか自分の店を持ち、人々を笑顔にするケーキを作ること。特に彼が心血を注いでいたのは、ふわりと軽やかなシフォンケーキだった。
ハルは、シフォンケーキに「詩風運慶」という当て字を当てていた。詩的な風が運ぶ、おめでたい慶び。彼の作るシフォンケーキが、まるで詩のように人々の心に語りかけ、幸運を運んでくれることを願って名付けたのだ。
しかし、現実は甘くない。何度焼いても、膨らみすぎたり、しぼんでしまったり。理想の「詩風運慶」にはほど遠かった。
ある雨上がりの午後、ハルは商店街の片隅にある小さなカフェで休憩していた。マスターは、いつも優しくハルの悩みを聞いてくれる、元職人の老婦人だった。
「今日も、詩風運慶に嫌われたんですか?」
ハルがため息交じりに言うと、マスターはにこやかに答えた。
「詩風は、待つものですよ。風は、追いかけるものではありませんから」
その言葉に、ハルはハッとした。彼はいつも、完璧なシフォンケーキを追いかけ、焦っていたのだ。
アパートに戻ったハルは、いつものように材料を準備したが、今回はゆっくりと、一つ一つの工程を慈しむように進めた。卵を割る音、砂糖が混ざる音、泡立てるリズム。全てが、まるで静かな詩のように響いた。
オーブンに入れた生地は、ゆっくりと、しかし確かな力強さで膨らんでいく。ハルは、その様子をじっと見つめた。まるで、風が詩を紡ぐように。
焼き上がったシフォンケーキは、これまでで一番の出来だった。黄金色に輝き、ふんわりと膨らんだ生地からは、甘く優しい香りが部屋中に広がる。まさに「詩風運慶」そのものだった。
その夜、ハルはマスターのカフェに、焼きたてのシフォンケーキを持って行った。
「これが、僕の詩風運慶です」
マスターは一切れ口に運び、目を閉じた。そして、ゆっくりと目を開き、ハルに微笑んだ。
「素晴らしい。このケーキには、あなたの心が詰まっていますね。まさに、慶びを運ぶ詩の風です」
その言葉に、ハルの目には涙がにじんだ。諦めずに追い求めてきた「詩風運慶」が、ようやく形になった瞬間だった。
それから、ハルの作るシフォンケーキは、街で評判になった。人々は、彼のケーキを一口食べると、まるで優しい風に包まれたように、心に温かい光が灯るのを感じた。
ハルは、今日もオーブンに向かう。彼の作る「詩風運慶」は、これからも人々に、ささやかながらも確かな幸福を運び続けるだろう。
#当て字でことばあそび
#夜露死苦フェス
#ことばりうむの星
短編小説第2弾
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夜露死苦フェス 〜当て字でことばあそび〜
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yjk☁️
ステキですやん[照れる] でも、これアカンわ……うん。 近所にこんな人おったらアカンわ。 毎日、受動飯テロ喰らわされる[ほっとする] てか、「詩風運慶」はやく商標登録せな♪
ポリポリ
優しいお話ですね[照れる] 老夫婦の存在がお話に重しと味わいを添えているように感じました✨