子供の心理診療日誌：小児科医の秘密

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ハーロック

2024/10/03

その日、診察室にやって来たのは幼い女の子でした

わたしはいつものように笑顔で会釈をして、前の椅子に腰掛けるよう促しました

女の子は椅子にちょこんと腰掛けると、不安そうな顔でわたしを見上げたのです

さて、今日はどうしましたか
お嬢さん

あのね、あのね、先生
違うの、診て欲しいのはこの子なの

女の子は大切な抱えていたフランス人形を、両手に持ち直してわたしに向けて突き出しました

さて……

わたしは顎にたくわえたヒゲを触りました
困った時に出るクセなのです

ふむ、わかりました
ではちょっと診させてくださいね

ロイド眼鏡を下にずらして
胸に吊るした聴診器を、わたしは慎重に人形の胸にあてました

ほうほう、なるほどなるほど

女の子は依然、不安そうな顔でわたしを見てきます

わたしは女の子に向けて微笑み
ゆっくりと頷いてみせました

異音は確認できません
肌つやも良い

髪もきちんととかれていて
お嬢さんが大事にされているのがよくわかります

大丈夫、このお人形さんは健康だ
非の打ち所がない、わたしが保証しますよ

本当！

女の子の顔がパッと輝きました
これくらいの歳の子は、表情がくるくる変わります

本当ですよ、お嬢さん
医者のわたしが太鼓判を押しましょう

ありがとう、先生！

女の子は満足げにそう言うと
椅子を飛び降りて出口に向かいました

あぁ、ちょっと待ちなさい

女の子が振り返りました

お人形さんのお名前を、まだ聞いてなかったね

この子のお名前は、ジェニファーよ

そうかい、良い名前だ
気をつけて帰るのだよ

女の子は満足気に頷くと
勢いよく診察室を出ていきました

病院には、さまざまな患者さんがやって来ます
時に、わたしが患者さんから元気をいただくこともあるのです

#希望 #自作小説