地下の秘密バーで出会った男の物語

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投稿

ハーロック

2024/09/22

その男と出会ったのは

山裾にある古いレンガ造りの洋館の、地下のバーだった

地下に通じる階段の入口に、ほんのりと光る小さな看板があった
「Bar Chaos World」と書かれていた

たまたま通り掛かった時に見つけたのだが
正解だった
俺好みの瀟洒(しょうしゃ)なバーだった

初めてその扉を開いた時
蝶ネクタイのマスターは
ショットグラスを磨いていた

客はひとり
カウンターの端っこに、その男は座っていた
ギムレットをあおっていた

毎週のようにそのバーに通ううちに
いつもいるその男と話しを交わすようになった

男が狂っているのか、ただの嘘つきなのか
それは今でもわからない

自分は、遠い昔の異国から
この国に飛ばされて来たのだと男は語った

青い目をしていた
大柄で、タフガイに見えた

自分の恋人を、怪しげな儀式から救った
その時に、司祭に吹っ飛ばされたそうだ

気づいたら、今の時代のこの国にいたらしい

まぁ、真実などどうでもよかった
飲み屋によくある与太話だと、俺は思った

別に、信じなくても構わんさ
事実は変わらないからな

男は俺に、そう笑いかけた

自分は彼女を救った
だから、満足だ

おまえさんに伝えたいことは、そんな事じゃない
大切なのは、ここからだ

いいか、俺は過去の異国から吹き飛ばされた
だからこそわかることが、ある

どの時代、どの国、男だ女だと言ったところで
良いヤツもいれば、悪いヤツもいる
どちらかわからんヤツもな

人間なんて、みんな同じだと言うことだ

だから、ああだこうだと悩んでないで
好きに生きればいいのさ

どのみち最後は死神が迎えに来て
みんな仲良く墓の下だ

男はそう言って、豪快に笑った

客が少ないバーだったが
マスターが気にする事はないようだ

美味い酒、ホラ吹きの男
こんなに愉快な店がほかにあるだろうか

今日もまた、バーの夜は更けていく

#希望 #自作小説