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桔梗色のきたじー

桔梗色のきたじー

#幻
『自苦之記』/Cp. 戦「星の奥地」

例の銅像の足元に、本当に扉があった。扉には、銅像の後ろにある建造物に彫られた文言と同じく……
 "GLORIAS"
とある。スペイン語で「栄光」。そうだ、私は、今から、この扉を開けて、「栄光」を掴みに行くのだ。これまでの不幸に決着をつける。そして、新たに幸せを得る。幸せになる。幸せになってみせる。
幸せになれ、私よ。幸せになってやれ、私よ。
三日月形になるまで大欠けした白い貝殻――即ち、「鍵」を2つ、ドアノブ横にあるコンセントのような穴に挿し込む。すると、鍵はゆっくり鍵穴に吸い込まれ、「ガチャッ」という音が鳴る。ドアノブの回りは軽かった。
見ると、森林にいる。が、地面も木々も眩しい。渋谷や秋葉原とは比べ物にならない。白すぎる。眩しすぎる。
ふと、声がする。
「眩しいってことを先に言っておくんだったね……申し訳ない」
ああ、彼だ。私の一番聞きたい声だ。直後、瞼に何かをかざされる感触を覚える。
「さあ、目を開けてご覧」
そう言われて目を開けると、眩しさはそのままだが、目が痛くない。光が、比較的大人しくなった気がする。
「目は平気?」
「平気になった」
「よし! じゃあ、君は準備は万端だよ」
「本当かな……手ぶらだけど」
「手ぶらの方が良いよ、これに於いては」
さあ、ついてきて、と彼は手招きした。
暫く、私たちは歩いた。
見つけたのは、おんぼろな小屋である。板材で四方を覆ってあって、窓はない。屋根は斜め。トタンではなく、これも板材。広さは4畳前後だろうか。
この小屋は、光っていない。むしろ、小屋自体がこっぴどく汚れていて、「光」の「ひ」もない。蝿も沢山飛んでいる。
「この中にいるよ」
彼は言った。
「君がこれから決着をつける相手が、ここにね」
「こんな汚れた場所に……?」
「汚れ覚悟で行くしかない」
「……そうだね」
意を決して小屋のドアを開けようと思ったら、見つけてしまった。
南京錠。
「あちゃー……これの鍵も見つけておくんだったね。そうすれば、一刻も早く決着がついたのに」
「……いや、鍵じゃなくても良いかもしれない」
困惑する彼をよそに、私は小屋の裏へ回る。ここに、なんと斧がある。実は、小屋に着いたときに、しれっと見えていたのだ。
斧を持って戻ると、おお……と後退りする彼。
「危ないよ……?」
「大丈夫」
「え、それで開けるつもり?」
「そうだよ?」
「良いのかな、そんなことして……」
「いや、問答無用。鍵盗みに行く暇なんてないし」
そして、私は豪快に鍵を破壊した。扉も、ほんの少しではあるが、一部壊れた。その壊れた箇所から、蝿が出てくる。
「行こうか、⬛⬛⬛⬛」
「うん、行こう」
扉の取っ手に手をかけて、ばっと開けた。
中は、血腥い臭いに満ちていた。蝿が無数に飛んでいる。もうこの時点で吐きそうである。
「大丈夫?」
「大丈夫かもしれないし大丈夫じゃないかもしれない」
「だよね~……」
鼻を摘まんだまま彼は返事する。鼻声みたくなっているが、何を言っているかはギリギリ分かる。
「電気あるよ、ここに」
彼が何かをシャラシャラ鳴らしながら言った。
「点けて」
直後、周りの光景が鮮明になる。すると、そこにあったのは……

  死屍累々だった。

私はとうとう耐えきれず、外に逃げて……吐いてしまった。
体が落ち着いてから、もう一度中に入る。光景は変わらない。
「大丈夫?」
「なんとか……」
私を気にかけてくれる彼。彼もきっと耐え兼ねるかもしれなかったのに。
屍は、複数あって、一部、知った顔(?)もあった。全身泥だらけで、蝿がひどく集っている。近くには、工具を引っ提げる場所、その下に小さなデスクがある。デスクの上には、写真が置かれていたが、そこで、見てしまう。
私の顔を。
大きな、太線の罰を付けられた、私を。
その横に、女性の写真があったが、そちらは、顔を大きなハートで囲んであった。……ここは、偏愛者の小屋と言うべきか。
こんな場所、知りたくもなかった。だが、決着のためだ、致し方ない。
が、思えば、ここで格闘なんておかしな話である。偏愛者と格闘して何になるというのか。それは物理的に私が生存しようとしているだけである。今までの全ての不幸に対する決着ではない。
そんなことを考えていたとき、彼は突然こう言い出す。
「ね、ねえ……

死体が一つ消えていないかい?」



……は?
私は慌てて周りを見渡す。確かに、扉近くの死体が消えている。虫に覆われていてよく見えていなかったが、ものの数分で消えるのはおかしい。
「外に出たら何かあるかな……?」
私が提案すると、彼は一瞬引き攣った顔をして、こう言う。
「覚悟決めてから出た方が良いよ?」
「そうかもね……」
深呼吸はしない。できないから。できない理由は、察していただきたい。
意を決してドアを開ける。すると、先程「消えた」と言っていた死体があった。虫の数は少ないが、血腥さは変わらずである。
死体に近付いてみる。すると、もっと恐ろしいことに気付く。
指が、微かに動いている。
顔から血の気がさーっと引いていくのが分かる。死体と思っていたこれは、信じたくないが、生きていたのだ。
直後、その首から嫌な音が鳴って、顔がこちらに向いた。
その顔は、恐ろしかった。



私だった。



次の章節を「討」とする。
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