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あお🫧
空は裂け、地は悲鳴をあげた。
嵐が村を覆い、屋根を吹き飛ばし、石畳を泥に変える。針のような雨が皮膚を刺し、風が骨を軋ませる。私はただ前へ進もうとするが、世界そのものが私を押し返してきた。腹の底は空洞のように乾き、口には鉄の味が広がる。
「まだ……生きねば」
雷鳴と瓦礫が崩れる音に混じって、私のつぶやきはかき消される。
そのとき、別の音が耳に届いた。怒号、悲鳴、殴打の音。
人々は食料を奪い合い、壊れた倉庫に群がり、互いに爪を立てていた。嵐が秩序を奪った瞬間、隣人は獣に変わってしまったのだ。
私は足を止める。逃げるべきか、抗うべきか。
答えは出ない。頭は混乱し、視界が揺らぎ、世界が歪む。
そのとき、水たまりに映った少女の顔が目に入った。汚れた頬、鋭い瞳。
「立て」
現実か幻か、区別もつかないその声が、胸の奥で響いた。
私は泥の中に倒れ込む。冷たい感触が頬を伝う。
諦めるのはたやすい。目を閉じれば、この痛みも寒さも消えるだろう。
だが、あの少女の幻影が、私に手を差し伸べているように見えた。その指先は、不思議なほど温かかった。
「まだだ」
幻の囁きが、私を奮い立たせる。
私は這い上がり、震える体を引きずって進む。ぬかるんだ路地の先では、血と涙にまみれた人々が、互いを突き飛ばしていた。その惨状の中を、私はただ一歩、また一歩と歩み続ける。
崩れ落ちた壁が行く手を塞ぐ。空の咆哮が思考をかき乱す。
「もう限界だ」と、心の声が囁いた。
吐き気が込み上げ、喉から赤黒い液体が溢れ出る。泥の中に沈む影は、今にも消えそうだ。
それでも、胸の奥に小さな火がまだ残っていた。
誰かを守らなければならない。
それが誰であったか、もはや思い出せない。だが、その想いだけが、私をこの世界に繋ぎ止めていた。
私は立ち上がり、震える手を天へ伸ばす。
嵐は続き、暴徒は叫び、大地は呻く。頬を伝うのが涙か血かもわからない。ただ、その一滴の重みが、生きていることの証だった。
絶望の淵から、私は明日へと手をのばした。
#混沌の世界#明日への手#songtostory#ことばりうむの星#音楽と言葉イベント
※『カルミナ・ブラーナ』は全25曲ほどの章で構成されるカンタータで、その中の「酒場に私が居るときにゃ」の章から発想を得た物語です。

カルミナ・ブラーナ 酒場に私が居るときにゃ
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