「絶望の中で」空は裂け、地は悲鳴をあげた。嵐が村を覆い、屋根を吹き飛ばし、石畳を泥に変える。針のような雨が皮膚を刺し、風が骨を軋ませる。私はただ前へ進もうとするが、世界そのものが私を押し返してきた。腹の底は空洞のように乾き、口には鉄の味が広がる。「まだ……生きねば」雷鳴と瓦礫が崩れる音に混じって、私のつぶやきはかき消される。そのとき、別の音が耳に届いた。怒号、悲鳴、殴打の音。人々は食料を奪い合い、壊れた倉庫に群がり、互いに爪を立てていた。嵐が秩序を奪った瞬間、隣人は獣に変わってしまったのだ。私は足を止める。逃げるべきか、抗うべきか。答えは出ない。頭は混乱し、視界が揺らぎ、世界が歪む。そのとき、水たまりに映った少女の顔が目に入った。汚れた頬、鋭い瞳。「立て」現実か幻か、区別もつかないその声が、胸の奥で響いた。私は泥の中に倒れ込む。冷たい感触が頬を伝う。諦めるのはたやすい。目を閉じれば、この痛みも寒さも消えるだろう。だが、あの少女の幻影が、私に手を差し伸べているように見えた。その指先は、不思議なほど温かかった。「まだだ」幻の囁きが、私を奮い立たせる。私は這い上がり、震える体を引きずって進む。ぬかるんだ路地の先では、血と涙にまみれた人々が、互いを突き飛ばしていた。その惨状の中を、私はただ一歩、また一歩と歩み続ける。崩れ落ちた壁が行く手を塞ぐ。空の咆哮が思考をかき乱す。「もう限界だ」と、心の声が囁いた。吐き気が込み上げ、喉から赤黒い液体が溢れ出る。泥の中に沈む影は、今にも消えそうだ。それでも、胸の奥に小さな火がまだ残っていた。誰かを守らなければならない。それが誰であったか、もはや思い出せない。だが、その想いだけが、私をこの世界に繋ぎ止めていた。私は立ち上がり、震える手を天へ伸ばす。嵐は続き、暴徒は叫び、大地は呻く。頬を伝うのが涙か血かもわからない。ただ、その一滴の重みが、生きていることの証だった。絶望の淵から、私は明日へと手をのばした。#混沌の世界#明日への手#songtostory#ことばりうむの星#音楽と言葉イベント※『カルミナ・ブラーナ』は全25曲ほどの章で構成されるカンタータで、その中の「酒場に私が居るときにゃ」の章から発想を得た物語です。