共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

アクア−Devil

アクア−Devil

---

🌙 夜の図書館のすみっこで(長文版)

むかしむかし、星の光が地上にまだよく届いていたころ、
町のはずれに、小さな図書館がありました。
昼間は子どもたちの声でにぎやかですが、夜になると、すべてのページは眠りにつき、
本棚たちは静かに呼吸をするように、しん、と静まりかえります。

けれども――
人間には見えないところで、夜の図書館にはひとつの秘密がありました。

夜になると本の中から、ことばの精たちがゆっくりと飛び出してくるのです。
彼らは透明な羽を持ち、声はとてもかすかで、耳をすましても聞こえるかどうか。
それでも、まちがいなく存在していて、
やさしい気持ちや勇気のかけら、忘れていた思い出などを、そっと世界へ運んでいました。

その中に「コトリ」という、まだ小さなことばの精がいました。

コトリは、自分がどんなことばとして生まれたのか、わかりませんでした。
他の精たちは、本の中でそれぞれ役割を持っています。

誰かを励ます言葉、
誰かを抱きしめる言葉、
歌になる言葉、
祈りになる言葉。

けれどコトリはどれにもなれません。
たとえば「がんばって」ほど強くなく、
「ありがとう」ほどあたたかくなく、
「好き」ほどまぶしくもない。

まるで、ページのすみで置き忘れられた「小さな息」のよう。

「ぼくは……いらないのかな」

コトリは本棚の影で、そっとつぶやきました。

すると、天井近くの高い棚の上から、
古くて大きな金色の本が、小さな声で答えました。

「ことばというものはね、
 自分から意味を決めるものではないのだよ。
 だれかに届くとき、そのひとの中で初めて光になる。」

コトリはその言葉を胸にしまいましたが、
まだよくわかりませんでした。

その夜、図書館の大きなガラスのドアが、そっと開きました。
風も鳴らさぬほど静かに。

入ってきたのはひとりの子どもでした。
手には小さなバッグ。目は泣いたあとで赤くふくらんでいました。

子どもは椅子に座り、声を殺して泣きました。
誰にも聞こえないと思って。

けれど、コトリには聞こえました。

胸の奥の、
名前にならない悲しみの音。

コトリは迷いました。
自分なんかに、なにかできるのだろうか。
でも、金色の本のことばが胸に残り、羽がゆっくり動きました。

――そっと、子どもの耳もとへ。

息をするように、
ほんのひとつだけ言葉を運びました。

「だいじょうぶ。」

たったそれだけ。
大きな言葉ではない。
鮮やかでも、すごく優しいわけでもない。
でも、確かに心に触れた。

子どもの呼吸が少しずつ整っていきました。
涙のかわりに、あたたかい息がもどってきました。

そして、ほんのすこしだけ、笑いました。

その瞬間、コトリの胸の奥に、やさしい火が灯りました。
自分が生まれた意味が、ようやく形になったのです。

――ことばは小さくてもいい。
――だれかの心にそっと触れれば、それでいい。

夜が明けるころ。
図書館の窓には、ひとつだけ光がともっていました。

それはランプでも星明りでもなく、
小さなことばの精が見つけた、
「存在する理由」という名の光でした。


--
GRAVITY
GRAVITY6
関連する投稿をみつける
話題の投稿をみつける
関連検索ワード

---