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マサヤス 龍之介
#読書の星
☆『当マイクロフォン』/ 三田完 角川書店版
この本の冒頭部では、中西龍の葬儀当日の朝の中西家が描かれる。次男坊の城が呼んでも返事のない母を案じて2階へ行く。そこで母は金銀の宝飾類が無造作に入れられた菓子箱を覗いて悦に入っていた。「お父さんに殴られる度に一つずつ買ってたの。これからやっと堂々と着けることができるわ」城は何も言わずに階下に降りた。一方の龍も物語が進んで生前、番組を通じて知り合ったNHKのディレクター二村淳(モデルは著者)を前に一緒に入ったスナックでベージュの巾着袋から金のネックレスやら高価そうな宝飾類をカウンターに並べた。「これはね、妻に見せる訳にはいかないものでね」。普段から中西のラヂオを聴いている熱烈な女性ファン達から頂戴した物だった。
この物語はこうしたシンクロニシティに溢れている。特に中西の女性遍歴は、嫌っていたはずの厳格な父親の人生と奇妙にもオーバーラップしていたり、と。中西の女性潭で一際詩情に溢れていたのが、最初の赴任地鹿児島県の沖乃村遊郭の花むらの敵娼(あいかた)かすみとの儚い交情であろう。この齢18の唖(おし)の少女の女郎との詩のやりとりと欲事のコントラストも見事だが、中西の家柄(父は第二代港区長)を出世の踏み台にした鹿児島放送局長の持ち込んだ縁談を最終的には断ったことにより、NHK最長の不倒新記録と噂された鹿児島から北海道への異動により、その交際は一年で終わってしまう。その別れのシーンは涙涙の未練船なのだが、かすみの書いた詩に中西が嗚咽が込み上げて終う。
…わたしは 外に出られるでしょう
あの人が 来るのだけが楽しい
楽しいから 一年すぐたちました…
この小説の中でさりげなく使われる昭和ことばはより一層味わい深いものに仕立てあげている。
三田はこの小説以外にも昭和の歌の歳時記『歌は季につれ」や名作詞家阿久悠の評伝「不機嫌な作詞家」、異能の俳優小沢昭一の評伝「あしたのこころだ」など昭和に活躍した人や歌を丹念に綴っている。巧みな文章力と話の構成力は『当マイクロフォン』でも発揮されてあっという間に読了してしまった。これを機に私も中西に倣い、手紙をしたためる際はサクラクレパスのピグマ、ピーコックブルーを使うことにした。

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あわの
名前を覚えてるのはやらかしてくれたアレな審判だけ

白石八

アイコ

ぱつん

征都
ぷりんすほてーーーーる!!!!!
(上 越 新 幹 線 越 後 湯 沢 駅)

まう
自分が惹かれる優先順位としては、お芝居が1番なんだなと
このところのいろいろ観劇で改めて思った

征都

開源🐴

はくさ
なおそれきっかけで行くようになってもうすぐ1年になりそうな赤い人は居る模様

たろす
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私は本は物語文は全く読まないので、こうやって解説を聞くと、ちょっと物語文を読んだ気分になれて嬉しいです[笑う]