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kagenaカゲナ

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#カゲナ光と闇のはじまり

第7話(ノクシアがいない夜、未来の扉)2

やがて一同は家の結界をくぐり、地下1階の共用スペースへと戻った。

 広間の奥には布団が一組だけ敷かれていた。厚く重ねられた掛け布の上に、カゲナは静かに横たわっている。すぐそばの棚には薬瓶や布が整然と並び、横の小さな机には水晶の器が置かれて淡い光を放っていた。戦いの直後とは思えないほど、整えられた静かな空間だった。


 クレアナの癒しの術がかけられ、焦げ跡や裂傷はじわじわと閉じていった。淡い光がカゲナの体を包み、やがて消えると、傷跡は薄い痕跡だけを残して消えた。

「……妙に静かです」
 クレアナが小さくつぶやく。
 彼女の視線はカゲナの胸に注がれていた。そこから感じられるはずの気配――悪魔の残滓も、魔力のうねりも――何ひとつ残っていなかった。

 リアはそれに気づかぬまま、兄の手を強く握り続けていた。

 時間は、重たくゆっくりと過ぎていった。魔光石の灯りは時折かすかに明滅し、壁に映る影が長く伸びたり縮んだりする。どこからか滴る水音がひとつ、またひとつと響くたび、待つ者の心を余計に沈めた。

 リアの瞳は涙で滲み、こらえきれずに頬を伝いそうになる。兄の手を握る力だけが、今の彼女を支えていた。――もし、この体温まで失われてしまったら。そう考えると、指先に込める力は自然と強くなった。

 ミレイナは椅子に腰かけ、腕を組んでいた。一見冷静を装っているが、その眉間には深い皺が刻まれている。彼女はじっと弟の寝顔を見つめ、ほんの少しでも息が乱れると立ち上がりそうになるほど神経を尖らせていた。

 クレアナは術を維持しながら、時折目を伏せた。計算では危機は脱した――それでも胸の奥にしつこい不安が残る。彼女は無意識に胸の前で指を組み、祈るように呼吸を整えていた。

 どれほどの時が過ぎたのか。
 魔光石がひときわ明るく揺らいだ瞬間、カゲナは、重たく沈んでいたまぶたをゆっくりと持ち上げた。

 視界に映ったのは、木の梁と、その間に吊るされた魔光石の淡い光。光は揺らめくようにぼやけて見え、しばらくどこにいるのかさえ分からなかった。

「……ここは……」
 かすれた声が、無意識に漏れる。

「家よ。もう無茶はやめなさい」
 返ってきたのは、冷ややかに突き放すような声だった。


 横を見ると、椅子に腰かけたミレイナが腕を組み、こちらを見下ろしていた。
 その表情は厳しいものだったが、瞳の奥にかすかな安堵の色が揺れていた。

 カゲナは身を起こそうとした。だが力が入らず、思うように動けない。
 試しに空間操作を発動させようとしたが、応答はなかった。
 胸の奥に呼びかけ、“心牙”を思い描いても――そこはただ、深い沈黙を返すだけだった。

「……なんか、静かだな」
 理由も分からぬまま、そんな言葉が口をついて出た。

「当たり前よ。自分がどれだけ無茶したか、分かってる?」
 ミレイナは吐き捨てるように言いながらも、ほんの少しだけ、声の調子が和らいでいた。
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