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鳴海ちひろ
もう会えなくなるって、わかっていたらもっと、好きって気持ちを伝えていた。いつもより可愛い私で、最後の日まであなたの隣で笑っていた。そうかな、笑っていられたかな。
それがわかっていたから、あなたはこんな形での別れを選んだのかな。
今涙が止まらない私を、あなたはわかっていたのかな。
だからこの水色の付箋だけをのこして、何も言わずにこの場所から居なくなったのかな。
あなたとの今までを思い返すと、どうしてもこの場所に帰ってくる。
この小さな半円の家で、二人過ごした日々を。
夕焼けも、雨音も、春の陽射しも、きっとこの場所で味わうのが正しくて。ここが二人の帰る場所だった。
「もうここには来れない。あかりのこと俺はたぶん好きで。ずっとここに居たかったけど、母さんについて行くことにした。あの人、きっと一人じゃ生きてけないから。ごめん。」
いつも握っていたあなたの手が、この文字を書いて何を思っていたのかなんてわからないのに。
私は水色の紙に並んだ文字を撫でて、この場所でひざを抱えるだけ。
だってあなたは、どこに行くかも教えてくれなかったから。
私はここから走り出すこともできずに、ここでただ涙を流すだけ。
いつまで待っても、あなたの好きな雨は降らない。
#GRAVITY小説部 #創作 #掌編小説
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