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大介

大介

#詩的散文
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『気配の断章』


Ⅰ章 〜記憶の棲み処〜 

この部屋は、
時が止まったまま、
誰かの記憶を抱えている。

もう誰のものでもないのに、
誰かの気配が
まだ、そっと息づいている。

それは声ではなく、
名を持たぬ呼吸のように
壁の繊維に染み込み、
光の粒子に紛れて
いまも漂っている。


Ⅱ章 〜沈黙の層〜

時はここで
まっすぐには進まない。
剥がれた壁紙の下に
幾重もの季節が折り重なり、
沈黙の層となって
床の軋みに宿る。

私は歩く。
けれど、歩くたびに
誰かの足音が先に鳴る。
それは私か、
それとも、
私よりも前にここを歩いた
無数の「私たち」か。

記憶は、
ひとりのものではない。
この空間に触れるたび、
私は"私"でなくなり、
誰かの夢の続きを
そっとなぞっている。

やがて、
私の影もまた
この部屋の一部となり、
未来の誰かが
「気配」として
私を見出すだろう。


Ⅲ章 〜時の外側〜

この空間は
終わることなく
誰かの存在を、受け入れてゆく。

そして私は、
名でもなく、声でもなく、
ただ、触れられぬものとしてここにある。

誰かが
まだ知らぬまなざしで
この部屋を見つめるとき、
私は
揺らぎのように
その瞳に映るだろう。


それが気配と呼ばれるなら、
それでいい。


私はもう、
時の外側で
言葉にならぬまま
在り続ける。

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