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OTONARI
ミナトとサヤカは、大学時代からの付き合いだった。
この街のネオンは、二人の思い出を映すスクリーンだった。
初めてのデートで笑い合ったカフェの赤い看板。
サヤカの誕生日にミナトが花束を隠した遊歩道の青い光。
そして、二人で選んだ小さなシルバーの指輪――お揃いの約束の証。だが、その指輪は、サヤカが三年前に失くした。
社会人になり、忙しさに追われていた頃だ。
ミナトは深夜まで働くようになり、サヤカは新しい職場でのプレッシャーに押し潰されそうだった。会う時間は減り、言葉はすれ違い、電話越しの沈黙が増えた。
ある日、サヤカは慌てて指輪を探したが、見つからなかった。
「ごめん、ミナト。指輪、なくしたみたい…」
電話の向こうで、ミナトは少し間を置いて答えた。
「…仕方ないよ。」
その声は、どこか遠く、冷たく響いた。サヤカは胸が締め付けられる思いだった。
自分の不注意で失くしたのは指輪だけじゃないのかもしれない――そう思った。
「もう、指輪なんてなくてもいいよね。私たちには、必要ないのかも。」
電話を切った後、サヤカは受話器をそっと置いた。
その手は震えていた。笑顔で言ったつもりだったが、その声が、自分自身に言い聞かせる嘘だったことを、一番よく知っていた。
それ以来、指輪の話は二人の間で触れられないタブーになった。
雨の夜。
ミナトは一人、街を歩いていた。濡れたアスファルトに、ネオンの光が滲む。ふと、足元で小さな光が揺れた。拾い上げると、それは――ネオンでできた指輪だった。
淡い光の輪は、まるで街の記憶を宿したように脈打っていた。指輪を握ると、指先に微かな熱が伝わり、雨音に混じって、サヤカの笑い声が聞こえたような気がした。
この街のネオンは、いつも二人を見守ってきた。笑顔も涙も、すべてを映し、吸い込んでいたのかもしれない。
指輪はミナトの手の中で輝き、彼を過去へと導いた。
まず浮かんだのは、二人が初めて手を繋いだ交差点。
雨の中、ミナトは傘を傾けてサヤカの肩を守った。
次に現れたのは、初めて喧嘩した路地裏。
互いに意地を張って背を向けたあの夜、街のネオンはどんな光よりも冷たかった。
だが、その闇の中からこそ、二人は再び寄り添う術を学んだ。
光の指輪は、二人の喜びも痛みも映し出した。
それは、ただの記憶ではなく、確かに二人を繋いできた「光のしるし」だった。
最後に指輪が導いたのは、サヤカが指輪を失くしたあの日の道。ミナトは気づいた。
サヤカが失くしたのは銀の輪ではない。二人の間にあった信頼や、向き合う勇気そのものだった。
サヤカはあの夜、指輪を失くしたショックで泣きながらミナトに電話したが、彼の冷たい声に傷ついた。それでも彼女は、笑顔で「必要ない」と言ったのだ――自分を納得させるために。
ミナトは光の指輪を握り、サヤカの家の前に立った。
窓の向こうに、彼女の影。サヤカは本を読みながら、時折遠くを見つめていた。ミナトはドアを叩いた。
驚いた顔で現れたサヤカに、ミナトは光の指輪をそっと渡した。
「ごめん、サヤカ。僕が、逃げてた。」
サヤカは指輪を手に取り、そっと握りしめた。彼女の目から、堰を切ったように涙が溢れた。それは、指輪をなくした時の後悔でも、ミナトの冷たい言葉への痛みでもなく、ずっと一人で抱えていた寂しさや、ミナトが再び向き合ってくれたことへの安堵の涙だった。
彼女は何も言わなかった。ただ、その光を握りしめるように、静かにうなずいた。
彼女の指に光るネオンの輪は、もう二度と消えることはなかった。
それは、街のどんな看板よりも静かで、確かな光だった。
#恋愛 #短編小説 #ショートショート #指輪 #指輪物語

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