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ゆま

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大切な日々大切な日々
【不良と犬人Part12】

「ハマ、ハマ、おい」
俺は力なく項垂れるハマの肩を幾度も揺らした。やがて微かな反応があり、ハマはゆっくりと顔を上げた。内出血で頬は腫れ上がり、口も上手く開かない。
「…恋…紫……さん」
ようやく発したその声は、か細くかすれていた。だが。

「よかった…」
命があっただけまだマシと俺は胸を撫で下ろした。とはいえ体の傷も気がかりだ。早く病院へ連れていかなくては。

俺はハマの手をとり彼に肩を貸して、立ち上がろうと踏ん張った。まさにその時、両サイドの男たちが魔法でも切れたかのように動き出す。

「てめぇ、どこから湧いて出やがった」
そう唸ると、パチッと音を鳴らせた男の手元にはキラリと光るナイフが見えた。ハマを担ぎ上げた俺に逃げ場はない。咄嗟の判断で、俺はハマを守ろうと男に背を向けた。

その時、けたたましい程のぽっちの唸り声が聞こえるのだ。何事だと振り返ると、男の足に噛み付くぽっちの姿があった。

たまらず男は野太い悲鳴をあげ、足を振り回すも、ぽっちは噛み付いたまま離れない。

「いくのだ恋紫、ハマを助けて」
ぽっちのことは気にかかったが、先ずはハマを安全な所へ連れていかなくては。俺はひと握りの使命感に突き動かされ、廃工場外を目指して走り出した。

外へ出て間もなく、近隣の住人が通報したのだろう、廃工場にはたくさんのパトカーがとまる。散り散りになって逃げていく頼堂ら。その中にはうちのメンバーの姿もあった。

それでも、俺だけは廃工場の中へ戻ろうと踵を返す。
「お前何してんだ!逃げるぞ」
遥亮先輩が俺の手をとった。
「ぽっちがまだ中に」
「なんだそれは。とりあえず来い」
「いやだ、ぽっち。ぽっち」

たかだか犬ころ一匹。
しかも普通の可愛らしい犬じゃない。
直立歩行して人語を喋る気味の悪い犬だ。
わけのわからない事を喋り出すかと思えば悪態だってつく生意気な犬だ。
出逢ってまだ一日そこらの、犬ころだ。

なのに、どうしてだろう。
心がぽっちの存在を渇望している。
涙が溢れて止まらない。

「遥亮先輩、離してください、ぽっちんとこ行かせてください」
「ダメだ、お前捕まりてえのかよ」

そうこうしているうち、集結した仲間に両脇を羽交い締められ、俺はズルズルと廃工場から遠ざかっていくのだった。
#小説 #犬人 #不良 #犬のいる生活
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