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わんわん

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秋23連載小説です。1話からどうぞ。
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23話


明人は素早く、逆立ちする『それ』の横をすり抜けた。
そして夏希を抱きかかえ、部屋の入口まで戻る。
夏希の口の布を外し、拾ったナイフで手と足を縛るロープを切った。

「……明人くん!!」

開放された夏希は、大きな目から涙をボロボロと流して明人に抱きついた。
そして明人の胸に顔を埋めたまま『それ』を指差す。

「……あ、あれは何なの!?」

明人は眉をしかめて言った。

「 ここに来る前に、僕の息を少し入れておいたんだ……」

モニターには、逆立ちしたままふらふら揺れる『それ』の足と、逃げ場をなくして窓ガラスに張り付く冬陰が写っていた。
その顔は恐怖で歪んでいる。
冬陰の眼球が、救いを求めるようにモニターのコメントへ動いた。

『はいはい、ヤラセ乙〜』
『冬陰、意外と演技派だなwww』
『盛大に吹いた』
『今までの投稿もヤラセっぽかったしなー』

冬陰の顔から、ストンと表情が抜け落ちた。
それは、生きるための重要な何かを失ったように見えた。
眼鏡の奥の空洞のような瞳が、震えながら、にじり寄る『それ』の方を向いた。

『それ』は、ガチガチと歯を鳴らした。

「……ど、どかげぇーー! ゔぉれだちにわぁーー、じ、じんけんなどぉーー!」

……ピシッ。
冬陰が背中を押し付ける窓ガラスにヒビが入った。
正円の月が2つに割れる。
明人は立ち上がった。
しかし次の瞬間、大きな音をたてて窓ガラスは割れた。
冬陰は夜空にもたれかかるように、外の闇と同化していった。

夏希が短い悲鳴をあげた。
明人は、細いナイフを手に取った。そして『それ』に歩み寄る。

逆立ちする『それ』の足が、ゆらゆらと目の前で揺れている。

「……ごめんね」

明人は、赤黒く濡れたバーコードにナイフを突き立てた。

プシューー!!
空気が抜ける音とともに、『それ』はみるみるしぼんでいく。
くしゃくしゃの肌色のビニールの塊は、眠る猫のように床にへばりついた。

部屋に静寂が訪れる。
明人は、ビデオカメラのコードを引き抜いた。
そして割れた窓から下を覗く。

ビルの下には、大きな用水路が黒々と流れていた。
しかしその黒い水のどこを見ても浮かんでいるものはなく、ただ油のようにねっとりと月の光を反射しているだけだった……。

#秋のカブトムシ
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