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わんわん
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第5話
水槽に入ったアロワナを見たマスターは小さい目を見開いた。
「こ、これはレッドアロワナ…! いや、…紅血龍か!!」
水槽に口づけをする勢いのマスターに、俺は聞いた。
「なんですか? こうけつりゅうって」
「レッドアロワナの中でも、まれに赤色が濃く出る個体がいる。……それが紅血龍だ! 富裕層の間でそれはそれは高い値段で取引されてるんだぞ!」
俺は驚いて水槽を見た。紅血龍は先輩の魚たちを気に留めることもなく、新しい住処ですでに王者のように悠然と泳いでいる。
「この紅血龍も高いんですか…?」
「こいつは特に凄いぞ……! 100万……。いや、それ以上か……?」
マスターは振り向いて、つぶらな瞳で俺を見た。
「あのお客さんって、めちゃくちゃ金持ちなのか……!?」
俺は今日の出来事を全て話した。
マスターは俺の話を聞き終わと、すぐにバックヤードでパソコンを触り始めた。
手持ち無沙汰になった俺は、チラチラと紅血龍を見ながら開店の準備を始めた。
しばらくすると、マスターが俺を呼び、パソコンのモニターを見せた。
「ここで間違いないか?」
モニターには、遠くから撮ったのか荒い画像で、今日俺が通った無機質な門扉が写っていた。
門扉は開いており、よく手入れされた庭が少しだけ見えた。今日行ったときの少し荒れた様子とは大違いだった。
俺がうなずくと、マスターは画面を上へスクロールさせた。そこにはこう書いてあった。
『これが山崎会系豊島組の暴力団事務所 兼 豊島組長の自宅だ!』
俺はやっぱりか、と思うと同時に、あの人が組長の妻だったことに改めて驚いた。
マスターはしばらく考え事をしているようだったが、やがて口を開いた。
「……奥さんは本当に、『主人はもうあの魚の世話はしない』って言ったんだな?」
「 はい」
そう答えながら、俺はあの人の別の言葉を思い出していた。
『もう、世話をしているあの人は、ここへは帰ってこないような気がするの……」
#紅血龍と香水
#連載小説

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