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わんわん
『一片の雪』
最終話
「AV……!?」
「そうだ。事務所は『元アイドルがAVデビュー』と謳って、ファンに扮したキモオタおやじたち大勢の相手をさせた……」
俺は一気に気持ちが悪くなった。
「も、もう止めて下さい!」
スマホを見ていた高橋は、はっと顔をあげた。
「あ、す、すまなかった……! つい読み進めてしまった……」
俺の身体の中に、影よりも暗い手が現れて心臓を鷲掴みにする。
狭まる視界。
……ダメだ。本当に聞くんじゃなかった……!!
「い、いえ……。お、俺が頼んだことなのに、本当にすみません……!」
それだけ言うと、俺はグラスに残った酒あおった。
その後、どうやって店を出たのか全く記憶にない。
気づけば、俺はひとりで道端に座り込み、度数の高い缶酎ハイを飲んでいた。
突如襲いくる吐き気。
俺は両手を地面につき、胃の中身を吐き出した。
全て吐いても吐き気は治まらず、俺は胃液と涙を流しながら、地面に額を押しつけた。
美しいものを守れなかった事を謝罪するかのように……。
ーーコートの胸についた一片の雪は、もう小さなシミになっていた。
かじかんだ手に、鞄の重みが痛い。
鞄の中身は、俺が高校と大学で夢中になってきたものとは全く無関係な書類だ。
今から営業先で使うプレゼン資料。
結局、あの頃目指していた世界とは全く違う場所にいる。
俺も、栞と同じなのかもしれない……。
不意に、中学生の時、
雪虫を見たあとに、俺と栞が語り合った曲の歌詞が浮かんだ。
『あの頃の未来に、僕らは立っているのかな?
すべてが思うようにうまくはいかないみたいだ……。
悲しみって、いつかは消えてしまうものなのかな?
ため息は、少しだけ白く残ってすぐ消えた』
中学生の俺たちは、歌詞の意味なんて分からずに、何を語り合っていたんだろう……?
そう思うと、少しあの頃の二人が愛おしく思えた。
ふと、道端に植えてある木が目に入る。
枝の先にある蕾は、丸く膨らんで今にも弾けそうだ。
木々は、春が来ることを知っている。
俺は大きく息を吸って、鞄を持つ手に力を入れた。
そして、一歩踏み出した。
未だに冷たい風が渦巻く世界へーー。
ーー完ーー
※この後に『あとがき』をアップします。
#一片の雪
#連載小説

夜空ノムコウ
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リス🐿
受け止めるにはとっても重すぎる情報だったね🥲 今回は言葉がでません…ごめんね[穏やか]
わち
投稿おつかれさま。書ききったね。 みんながみんな夢を叶えていたら。残酷だけど、そしたら社会は回らないわけで。悲しく、切なくもある、リアリティあふれるお話しでしたね。毎回楽しんでいたよ。ありがとう。👏✨