
ゆきお
誰に向けたものかは
わからない
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ゆきお
この言葉はまさに鳴り響く鐘のように
私をお前から孤独な我が身へと呼び戻す
さらばだ!
世間では偽りの妖精と言うが
空想は噂で聞くほど巧みに
人を欺くことができない
さらば! さらば!
お前の哀れな歌声は
近くの牧場を過ぎ
静寂に包まれた小川を渡り
丘を越えて小さくなり
今では谷間に深く埋もれている
あれは夢だったのか、それとも白昼夢なのか?
歌の調べは消え失せて ――
私は目覚めているのか、眠っているのか?

ゆきお
いつも尊かったか
君がわたしの生活を
どんなに豊かにしてくれたか
君にはそうたいしたことでは
ないかもしれない
わたしにとってはわけがちがう
わたしは人間に対して不当ではない
人間に対し正当に辛抱づよく
するように努めているが
人間を愛したことはついぞない
それにもかかわらず
愛が何であるかを知っているとしたら
君のおかげだ
君をわたしは愛することができた
人々の中で君だけを

ゆきお
微酔を迫る痺れがわが五感を刺す
さながら毒人参を煎じて飲み
もしくは麻酔を致す阿片をいくばくか
今しがた残りなくあおりて
忘却の川へ向い沈み果てし如くに
お前の幸ある命運(さだめ)を
羨やみ思う故にあらで
お前の幸福(さきわい)に包まれ
余りにも幸あるがため——

ゆきお
おまえは幸福であり得るだけに
成熟していない
たとえ最愛のものが
すべておまえのものになったとしても
失ったものを惜しんで嘆き
色々の目あてを持ち
あくせくとしている間は
おまえはまだ平和が何であるかを知らない
すべての願いを諦め
目あても欲望ももはや知らず
幸福、幸福と言い立てなくなった時
その時はじめて
できごとの流れがもはや
おまえの心に迫らなくなり
おまえの魂は落ちつく

ゆきお
そして幾たびか
安らかな死に半ば恋をしていた
静かな息が空へ引き取られるようにと
数多くの瞑想から生まれた歌で
死を優しい名で呼んだものだ
しかし今こそ苦痛もなく
真夜中に命を終えることは
いつにもまして豊かなものに思える
お前が恍惚として
魂を注ぎ出すその間に
お前はなおも歌い続け
私の耳は空しくなるだろう
お前の高らかなレクイエムに送られて
私は土へと還ってゆく

ゆきお
感覚がおぼろげに痺れ行く
まるで毒ニンジンを煎せんじて飲んだような
あるいは体を鈍らせる阿片を飲み干して
忘却の河へと沈んでゆくようだ
これはお前の幸福な運命に
嫉妬したからではない
お前の幸福の中で
私もまた幸福すぎるからだ
