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天文台
今の状況になる前にバスに書かれたものなのだろう
閑散とした会場を思い浮かべる
閑散とした会場を見てため息をつく主催者を思い浮かべる
きっとマンモス展を開催しようとする主催者は善良な人なのだ
氷漬けになった絶滅してしまったマンモスを見れるということは偶然の産物であるし興味深くて素敵なことだ
氷漬けになったマンモスを思い浮かべる
本人は氷漬けになっていることも知らないだろう
僕が氷漬けになっていることを思い浮かべる
きっと僕も研究されて展示されて
主催者はきっと善良な人なのだ

天文台
喫茶店のソーダ水
メロン色でメロン味のシロップとチェリーの入ったソーダ水
シロップが入っていてもベトついたりせずにサラリとしていて嬉しくなるような甘さ
チェリーもその中でちょうど良い甘さになっている
開店前から並んで喫茶店の最初のお客さんとしてソーダ水を注文してソーダ水を飲もう
何だかそれは意義があることのように思うし
一生のうちに一度くらいはそうしても良いだろうし
そうしなければいけないような気もする

天文台
僕は僕なんかより
君にずっと幸せでいて欲しいって思った
君が笑顔でいて
君がこの世界にいるだけで
それだけで僕は幸せだと思った
自分が傷つくより
君が傷つく方が痛くて
でも君はそれをちゃんと受け止めるから
僕はやっぱり君が愛しいよ
きっと
僕と君は一緒にずっと幸せでいるようにって
そう決まってるんじゃないかって
僕はやっぱりまだそう思ってしまうよ

天文台
涙を浮かべながら
街並みを歩いている
あの頃僕も君も
お互いに向き合って
そのためだけに全力だったって思う
そうすることが当たり前のように僕は自然に君を求めて
そんな君の笑顔を忘れられるわけがない
また静かにそばに寄り添って僕を抱きしめて
僕は山に登って空に触れて
僕の小さな心がどれだけ深く君を愛しているか神様に届けるよ
僕の夢で
僕の強さで
僕の全部だ
僕の夢で
僕の強さで
僕の全部だ
僕は山に登って空に触れて
僕の小さな心がどれだけ深く君を愛しているか神様に届けるよ

天文台
青年は少なくとも自分の気持ちを彼女に伝えたいと思って、彼女に宛てて恋文を書いた。
青年は彼女のことが好きだったが、もしかすると彼女が好きだって気持ちと同じくらいかそれ以上に自分のことが好きだったのかもしれないし、恋に恋をしている時期は、そういうものであることが多いのかもしれない。
青年は彼女に恋文を出した。
青年は知るはずもなかったが、彼女も思いを寄せる人がいて、彼女の恋は結ばれることなく解けた。
彼女は思う。
私の心はあの人のものだし、あの人のものであるべきだ。
だけれども私の心をあの人は受け取らなかったし、私の心はただぼんやりと私とあの人の間で浮かんでいる。
彼女の思いはぼんやりと行き場なくそこに浮かんでいて、本当はすごく痛いはずなのに痛みも伝わってこない。
ただ失われるだけで、私はただそれだけの存在で、あの人だけじゃなく私もそう思っている。
彼女はそう思うと何もかもが虚しくなって、彼女は自ら命を絶った。
青年は恋文を出したことを悔やんだ、同時に彼女が自分の為に命を絶つ選択をしたんじゃないかと考えて少し彼女の一部を手にしたように思った。
青年は自分が彼女の運命の人で自分は彼女の為に生まれてきて、彼女は自分の為に生まれてきたんだと思うようになった。
愛し合って共に生きるより、自分が原因で命を絶つ方がより繋がりが深いとも思った。
それは責任転嫁でただ自分の都合だけだったけれど、青年はそう思うしか仕方なかったんじゃないかとも思う。
青年は何時しか彼女は自分の為に命を絶って、自分の運命の人だったと思うようになった。
青年は孤立していった、青年のことを壊れたって多くの人がそう思った。
ある日青年に仙人と名乗る老人が会いに来た。
老人は言った。
「彼女をあの世から連れ戻したいなら、彼女をあの世から連れ戻す術を教えてやる。」
青年は仙人と名乗る老人に教えを乞うた。
「黄泉の国に行くには普通の服装ではダメだ、黄泉の国の空気に耐えれないしすぐに見つかってしまうから、私の用意した服を着れば大丈夫だ。」
「わかりました。」
青年は仙人に応えた。
「黄泉の国の最下層に行く。最下層では皆が助けを求めて手を差し出す。お前は彼女の手を選んで掴む、その手を引いて振り向くことなく、声を出すことなく、黄泉の国の出口までくれば彼女を黄泉の国から連れ出せる。」
青年は一も二もなく仙人の言葉に従うことを決めた。
仙人は青年に言った。
身体を清めてから明日の夜明け前に町外れの朽ちた祠に来るように言った。
青年は家に帰り身体を清めた。
青年は明日彼女に会えるのだと思うと嬉しかった。彼女のために黄泉の国に行く自分を彼女に見て欲しかった。
青年は夜明け前に町外れの祠に行って用意された服を着た。
青年がいつも着ているような服ではなくて、仕立ての良い上等な服で微かに香の匂いもした。
「夜と朝の混じる束の間、現世と黄泉の国も混じり合う、その時を逃さず黄泉の国に入れ。くれぐれも言うが、黄泉の国の最下層で差し出された手から彼女の手を選び、その手を引いて振り向くことなく、声を出すことなくここまで戻ってくるのだぞ。」
仙人は青年に言った。
青年は深呼吸をしてその束の間を待った。
夜と朝の混じる瞬間、現世と黄泉の国がつながった。
青年は一歩踏み出して黄泉の国に入った。
黄泉の国はただ闇だった。闇の中ゆるやかな坂道を青年は降る。
青年は彼女のことを思っていた。
「彼女は僕のために命を絶ったのだ、僕にとって彼女がかけがえのないものであるのと同じかそれ以上に、僕は彼女にとって大切な存在なんだ。」
青年の中ではそれが真実になっていた。
他の人には理解されなくとも、青年と彼女の間ではそれが真実だと思った。
彼女を黄泉の国から連れ出した後に、ちゃんと直接彼女に思いを伝えよう、彼女と共にお互いに思い合って、いつまでも幸せに暮らしていこう。
青年のゆく手に灯が見えた。
灯に照らされて無数の差し出された手が見える。
青年は差し出された無数の手の中に彼女の手を見つけた。
青年は彼女の手を掴み、彼女の手を引いて来た道を戻る。
「愛しい人、あなたは私を黄泉の国から救ってくれるために来てくれたのですね。」
彼女の声が聞こえた。
青年は安心した、自分はちゃんと彼女を選ぶことができたんだ、やはり僕と彼女は結ばれる運命だったんだ。
青年は嬉しかった。彼女の温かい手が彼女の思いを自分に伝えている気がした。
「私の思いはあなたに伝わっていて、あなたは私の思いを受け止めてくれたのですね。」
彼女は続けた。
青年は思いを伝えるように、つないだ彼女の手をギュッと握った。
彼女も応えるように青年の手をギュッっと握り返した。
青年は幸せだった。
彼女とお互いに思い合えたと感じて、自分は彼女のことを愛しているし、彼女も自分のことを愛してくれていると感じた。
「この服とこの香り、私がずっと思い続けてきたあなた、私はあなたを愛していました、私はあなただけを愛しています。」
彼女は言った。
青年は理解した。
青年が着ている服は彼女が命を絶つほど思い続けていた男の服で、彼女は今もその男をずっと思い続けている。
彼女が青年の手を強く握る。
彼女は愛しい人への愛を青年に伝え続ける。
青年は声を出さずに泣いていた。
青年は自分の思いは届かないのだと知った。
届かないのだと知っても青年は彼女の手を引き黄泉の国を戻った。
青年は彼女を黄泉の国から連れ出した後、彼女を振り返りもせずにその場から去った。
青年はもう生きていても仕方ないと思い、黄泉の国に戻ろうと思ったが、仙人はもう何処にもおらず、それから黄泉の国への入り口は開くことがなかった。

天文台
夜勤明けには洗濯する
お仕事が終わりホッとして少し疲れた身体で家路につく
忙しかったから今日は心地良い疲れじゃなくて重い疲れだなと感じながら帰ってくる
帰り道心地良い疲れに包まれてることもあるけれどそんな日は少ない
心地良い疲れの時は自分がちゃんと頑張ってお仕事も上手く行った時で
それを自分が一番知っているから
やっぱり気分だけそんな風にしても途中でしらけて苦い缶コーヒーを飲みたくなる
疲れとしらけた気分と苦い缶コーヒーの帰り道もそんなに悪いものでもなくて好きだけれど
家に着く
たまっている洗濯物を洗濯機に入れる
着ている服も洗濯機に入れてそのまま浴室に行ってシャワーで一日の汗と疲れを癒す
流すんじゃなくて熱めのシャワーで癒す感じ
本当はお湯を張って湯船に浸かりたいけれど心地良すぎて寝てしまうからお湯は張らない
お風呂から上がっていつもの部屋着に着替える
お風呂上がりに缶ビールを飲む
洗濯機は規則正しい稼働音で回り洗濯物を洗濯している
疲れているせいか少しお酒のまわりが早い
重かった疲れも今は心地良い疲れに変わっている
苦い缶コーヒーじゃなくてもう一本ビールを飲みたいって思う
冷蔵庫から缶ビールを出してプシュって音とともに栓を開けて
ビールを一口飲む
洗濯機の中で洗濯物はまわってる
稼働している洗濯機の蓋を開けてその中にビールを入れて洗うと干した後に麦と大地の香りがするんだろうなって思う
本当はそんな香りはしないで酷いことになるんだろうけれどイメージの中では麦と大地の香りと太陽の匂いがする
そんなことを考えながら結局2本目のビールもあけてしまった
忙しかった夜勤明けの空きっ腹にビール2本は眠くなる
でも洗濯が終わったら干さなきゃならないんだよね
それを考えると億劫なんだけれど
それでも今は心地良い疲れと程よいお酒でとても幸せな心地なんだ

天文台
脱ぎたいなって思うのだけれど、真夏の路面が熱すぎて脱げないから仕方なくぺたぺたと歩いている
真夏の都会の繁華街で、僕が足ヒレを付けているのは僕だけが知っている
他の人は僕が足ヒレを付けているのを知らないから、どうして僕が不恰好にぺたぺたと歩いているのかわからない
僕が最初からそんな歩き方だったって思ってる人が大半だと思う
中には僕が足ヒレを付けてるって気付く人もいるけれど、真夏の都会の繁華街で足ヒレを付けているから、あえて触れないでいてくれてる
足ヒレを付けているなら海に行けば良いのにって言われると思う
でも僕は海から足ヒレを付けてここまで来たんだ
だからせめて雨でも降ってくれないかなと思う

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今の状況になる前にバスに書かれたものなのだろう
閑散とした会場を思い浮かべる
閑散とした会場を見てため息をつく主催者を思い浮かべる
きっとマンモス展を開催しようとする主催者は善良な人なのだ
氷漬けになった絶滅してしまったマンモスを見れるということは偶然の産物であるし興味深くて素敵なことだ
氷漬けになったマンモスを思い浮かべる
本人は氷漬けになっていることも知らないだろう
僕が氷漬けになっていることを思い浮かべる
きっと僕も研究されて展示されて
主催者はきっと善良な人なのだ

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はじめまして!いろんな人とお話したいです。
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