
ハ月
#小説のなかの好きな一節
#INTP
読書

ハ月
「思い出ってものは、わざわざ出かけて確かめるものじゃないよ。そっとしておこうよ」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
新しいグラスが二人の前に置かれる。ピアノを取り囲むカウンター席は満員だ。ボックスの方にも空きはない。時刻は午前零時三十分。大人の時間帯だ。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「で、俺さ、さすがに反省して。クリスマスの朝、目覚めてふと外を見ると一面の雪だった。外へ出て、庭一杯に"I LOVE YOU"と雪の上に描き、ミエを起こした。"ミエ、俺からの心からのプレゼントだよ、ちょっと見てくれよ"
ミエは眠い眼をこすりながら、窓の外を見た。"プレゼントって、どこにあるのよ?"おそろしく現実的な声で彼女が訊いた。"あれさ"と俺が指差した。庭一面の〈I LOVE YOU〉。
ところが彼女の顔色が変わったんだ。"何よ、あんなもの"それからすごい剣幕で、俺にくれたバカラのグラスを片っぱしから壁に叩きつけ、ひとつ残らず割ってしまったね。"あたしは、バラの一本でも良かったのよ。あたしのために、あなたに何か贈りものを買ってもらいたかったのよ"
"俺、ミエのためにホワイト・クリスマスを贈ったんだけどな"
"調子いいこと言わないでよ。もし偶然に雪が降らなかったら、どうするつもりだったの。窓ガラスに〈I LOVE YOU〉って描くの!ケチ!"
それで終わり。グラスのすさまじい破片だけを残して、彼女は出て行った。永遠に」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
時には、自分をニック・アダムスに仕立てあげる森をさまよい川を登る。ソバ粉のパンケーキも焼いてみた。ソバ粉七に小麦粉三の割り合いで溶いたものが、一番僕の口に合う。パパ殿はそれにリンゴジャムをはさんだらしいが、僕にはちと甘すぎる。きっとリンゴの種類が違うのだろう。酸味の強いクッキング・アップルならいけるかもしれないが、日本では手に入らない。
そこで僕は、カナダ産のメイプルシロップに、生のレモン汁とで代用することにした。酸味と甘味が絶妙で、ソバ粉のパンケーキには中々いける。ヘミングウェイが生きていたら、絶対に教えてあげるんだけどね。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「セクシーになろうとすればなれないわけでもないのに、その努力をしない女はアウト」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月

ハ月
「……あのとき、そのシャツ、ドレスに合わせて、きみは試着室のなかで、髪のスタイルをすこし変えたのだ」
片岡義男『きみを愛するトースト』

ハ月
「そうでしょうね。服を買うのは、好きだったわ。もっとも手っとり早い、自己実現だから。新しい服を買って着ると、自分が、なにかになったような錯覚があって、その錯覚は、充分に陶酔的なのよ」
片岡義男『きみを愛するトースト』

ハ月
きれいなうしろ姿のきみは、あの光景にじつによく調和していた。あまりにも調和しすぎていて、ぼくは、不憫に思った。年下のぼくが、不憫に思った。なぜ、不憫かと言うと、あまりにも似合いすぎている。その風景から、いつまでもきみは抜け出すことが出来ずに、そのまま埋もれてしまうのではないか、という思いが誘発されてくるからだ
片岡義男『きみを愛するトースト』
(この引用の下に当時の自分のメモ有り)
……
彼から見た私がこんな風に映っていたら悲しい。「その風景から、いつまでもきみは抜け出すことが出来ずに、そのまま埋もれてしまうのではないか」という一文に、自分の今を重ねてしまった。自分のやりたいこと、目標、将来の夢、持ち合わせている資格などが、果たして今いる地で叶うのか、役立つのか、このまま過ごしていて将来、大丈夫なのかと。隣にいる彼の横で、彼のために笑い続ける道を、本当に選んでいいのかと。それがやりたいことなのかと。まだ間に合う。私だけの、大切な人生を、ちゃんと本当の意味で考えて、行動しなくてはいけない。
……
2021.1.25のスケジュール帳からメモを発見。
おそらく、お互いが恋に恋していたんだ。
世界は必ずしも恋人がすべてじゃない。
あの頃はただただ彼について行くことしか出来ず、このまま結婚して、扶養に入りパートでもするのかと思っていた。
なんだか閉じ込められた気分だなって、思っていた。
ところがそんな未来はあらず。
私もかつての恋人ももうとっくに自由です。
今の私にこの一節はスコンとも響きません。
多分、あの頃より心は豊かです。
幸せ、とは言いません。きっとあの頃もそれはそれで幸せだったので覆したくないから。
幸せだっただろう過去を、比べてつらかったな、、なんて、過去の私が救われない。
だから、今の方が、あの頃よりよく眠れます。

ハ月
「手料理で安く上げて女を口説こうなんて、やることが小っちゃい小っちゃい」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「だったら止めとけ。あのな。パトロネージってものは、勇気でやるもんじゃないんだ。あれはシャレなんだ。粋な大人の遊びなんだよ、俊介。おまえには逆立ちしたって手の届かん世界だよ」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
蓮は、死ぬまで私を騙し続けてくれた。
『疼く人』松井久子

ハ月
忘れられないなら、忘れなければいい。
思い出すのが辛くなければ、思い出せばいい。
『疼く人』松井久子

ハ月
ねえ、教えて。
どうして私が好きだなんて言えるのか?
何でもいいから、もう少し、理解できる言葉が欲しいのかな。
『疼くひと』松井久子

ハ月
「女の人生は、最初に出会った男によってきまる」ということを。
そして「女の人生の転変には、常に愛の問題が絡んでいる」ということを。
『疼くひと』松井久子

ハ月
「自立するってことは要するに、わがままになっていくってことなのね」
『疼くひと』松井久子

ハ月
自分の生きてきた人生の軌跡が、死とともに跡形もなく消えること。
『疼くひと』松井久子

ハ月
常識、社会的な規範、世間の眼、愛する者たちの願い、そのときどきの美学……。
いずれにも頓着せず、私自身でいること。
それは、人生におけるいちばんの価値を、孤独におくことでもある。
『疼くひと』松井久子

ハ月
風がまだ夜の冷たさを残している。裸足の足の裏に、露で濡れた芝生の感触が、気持良い。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
けれども、何かがどこかで決定的に欠落してしまったような感じを俊介は拭えないでいた。男と女の関係で、感性が決定的に違っていたら、だめなのではないだろうか。アルデンテをシンという女は、だめなのではないだろうか。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「彼女の友情に免じて今夜は何もしない」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「恋?誤解しないでよ。わたしたちのは最初から友情」
「なら落ち込むことはないよ」
「女心を知らないわネ、三四郎。それに俊介も俊介よ。途中でやめるなんて男らしくないわ。たとえわたしが八十のお婆ちゃんになったって、『デザートはキミ』って口説き続けるのが、男と女の友情におけるマナーじゃないのさ」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
三度味わって
やっと甘く感じる
ものなのさ

ハ月
彼女はいつも手紙をその時間に書いたのだった。
『花のような人』「幼なじみ」佐藤正午

ハ月
湯船につかっているとき、まだ若かった時代の彼女の記憶が少しずつよみがえった。正確に言えば、まだ若かった彼女を小説に書いていた時代を思い出した。自分もまだ若かったのだ。
『花のような人』「幼なじみ」佐藤正午

ハ月
彼女はそこに立ち、長いこと花の前にたたずみ、遠いむかしの最初の情熱を思い出していた。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
思い出してるうちに、無性に話したくなったの、ひさしぶりに。
ただ、それだけなんだけど、この電話、あなたの声が聞きたい、あなたにあたしの声を聞いてほしい、いま、あたしは台所にいて、ほんとにそう思ってる。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
あのとき僕はひとつ先のショーケースに飾られたブーケを見ていた。真っ白な、鈴のようなかたちの、小さな花。見ているうちに僕はその花束を手にした君の姿を空想していた。なぜだかわからない。君にとても似合う花だと感じたのかもしれない。それで、その香りを確かめたくて思わず歩いたのです。君から離れたのではなくて、未来の君のほうへ一歩近づいたのです。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
でも昨日は君の勘違いです。君が買物してるあいだそばに立って、僕はずっと君のことを考えていた。ねぇ、と話しかけられたとき、返事ができなかったのは、あれは未来の君のせいです。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
寂しいのは、もう二度と恋愛はしたくないという、少女時代から繰り返している決心を今回もした自分、進歩のない自分だ。でも同時に、今回は失恋と関係なく、普段通り、会社の仕事をこなしている自分が好ましくもある。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
「留学の準備で忙しいんじゃなかったのか?」
あなたのことも、その大切な準備のひとつなのよ、と彼女は思った。
『花のような人』佐藤正午

ハ月
それにしても、「いつかまた」という言葉ほど、人生で残酷な言葉はないと思う。人はその言葉にだまされ、はかない思いをかけて、その人生を終るのだ。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
私の思うのに、二十六、七からさきの女は、もうあるがままの自分ではやっていけなくなる。
こういう女になろうと、自分に似合わしく設計して少しずつ、それに近づくように矯めたり修練したりしてゆく、それを、私はひそかに、
(年齢化粧)
とよんでいた。白粉や口紅の化粧だけでなく、
(どういう感じの女になるか)
というのを、いつも考えていなければいけない、と私は考えていた。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
女というのは、秘密を守れない。というより守るのが性格的にいやなのだ。しゃべらせられた、という形で告白するのが好きなのだ。女の告白衝動というものは矯めがたい本性の一つである。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
別れることにきめてから、わたしは一そう彼が好きになった。こっちは別れると思っているのにそれを向うが知らないというのはたまらずいい気持である。おまけに、いやで別れるんじゃなくて、好きでたまらないのに別れるなんて、たとえようもなくいい気持である。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
花というものは、女が抱いて美しいものではなく、男が持って美しく活きてくるのである。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
自己愛のない女、なんて匂いのない花のようなもんだもの。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
「女は冗談にみせかけて本音を吐くことがあんがい多いものよ。本音か冗談かわからないような本音の冗談をいうのが上手なのよ」
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
花の名前を覚えるように、沢山のひとを好きになりたかったです。部屋に飾る花のように、必要とされたかったです。
「詩としての遺書」輪湖『うそ 特集AKU』

ハ月
何か一つ自分を成り立たせるものがあるとそれ以外が付属品みたいに大したことじゃなくなるんではないか、そうしたら生きていけるかもと思ったのだ。
「嘘の成仏日記🙏~学校では書けなかった正直日記~」小橋陽介『うそ 特集AKU』

ハ月
勇気がなく本当のことを言えないし人に嘘もつけないショボいぼくは自分に嘘をつく。
「嘘の成仏日記🙏~学校では書けなかった正直日記~」小橋陽介『うそ 特集AKU』

ハ月
本当のことを言ってもなんだかありふれた言葉になってしまうし、本当のことを言うべき理由などないかもしれないが、本当のことを言うと心が少し楽になります。
オエエエ。
「吐き気の経緯 宇治田峻」『うそ 特集AKU』

ハ月
本当のことを言わなくなっていくうちに、だんだん本当のことがわからなくなっていった。
「吐き気の経緯 宇治田峻」『うそ 特集AKU』

ハ月
嘘というものはつくための理由がある。けれども本当のことを言う理由はわからない。
「吐き気の経緯 宇治田峻」『うそ 特集AKU』

ハ月
「何をって、女は何をほめられたいですか?ひそかに女が自慢してるものを見抜くのは男の仕事ですよ。それが見抜けん男には、女をくどく資格おまへんよ」
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
男と女の仲、長く続かせようと思うなら、会うたびに、いつ寝てもいい、というような、ふわふわした、やわらかい、やさしい気分でいなければダメなのである。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
「愛の反対はなんだと思う?」
「無関心でしょう」
「いや、軽蔑だ。軽蔑したらそこで一切の関係はたちきられてしまうんだ。無関心は尊敬の反対だよ」
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
昔の男で、しかも、いまも厭味でない男というのはいい、と思ってた。昔、寝たではありませんか、といいたそうに思わせぶりな目くばせする奴や、昔のことを武器にしてのしかかってくるのは、これは厭味な男である。
でも、自分もちゃんと、自分の人生で仕事をしてて、偶然、昔仲よくした女にあう、そんなとき、心から嬉しそうにする男って、私は好きだ。
『苦味を少々』田辺聖子
