「旅人」 翌る日の頬に畳の跡が刻み込まれ、蓬髪頭をくしくしと掻きながら着物の襟を正した。和らいだ旅人は絶頂的な幸せを噛みしめ、二階の窓から下を見下げる。しだいに赤傘を差した綺麗な女性がやってきて微笑み、そっと彼に手を差し出した。 旅人の放浪が、ついに終わりを告げた瞬間だった。