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ぽやん
#詩篇メロリエル外伝


ぽやん
宵の風が
まだ名前を持たぬ花を運ぶ
谷が
忘れられた詩の吐息に
やさしくこだまする
沈黙の熱
わたしの声をさらった あの夜
失った声のかわりに
私がもらった奇跡
胸の奥に
ある音が芽吹く
誰も知らない音
誰にも届かぬ
“心の音”
父の古文書に
指をすべらせる
紙のひび割れの奥
眠る言葉たちが 夢を見ている
母の旋律を重ねると
それは風を得たかのように
花ひらいた
湖が星を映すとき
妹の寝息が
やわらかに光を変えた
そして わたしは気づいた
──呼んでいる
風の向こうから
“沈黙のうた”が
メロリエル
忘れた言葉を もう一度紡いで
声なき声で 世界を起こして
いま わたしは歩き出す
音のない道
光のない空
そのなかを
祈りのように
ことばを 聴き紡ぎながら
#詩篇メロリエル


ぽやん
メロリエルの春──魂の音
⸻
雪がとける音は
涙のよう
ひとしずくごと
冬が
眠りから
ほどけていく
谷の木々は
まだ裸のままで
それでも
枝の先で
芽が 鼓動してる
世界が
また
息をしてる
⸻
胸に手をあて
目を閉じれば
静寂の奥に
眠ってた
祈りの種が
あたたかい
ひかりの音になって
いま
脈を打ちはじめる
⸻
ありがとう
沈黙を
くぐったから
わたしは
いま
歌える
⸻
世界は
まだ
歌ってる
そして
わたしたちも
その中の
たった
ひとつの音
⸻
風がふわりと流れて
もう冷たくなくて
やさしい
匂いがした
「ねえ 聴こえる?」
春の風に
溶けた声
“聴こえるよ”
その答えで
草の芽が
いっせいに
震えた
⸻
空はもう
冬の青じゃない
透きとおる
金の記憶
雲の端に
宿ってる
⸻
水面に映る
わたしは
沈黙を
抱いてきた少女
でもいま
光を歌う
新しい声
⸻
ありがとう
沈黙を
くぐったから
わたしは
いま
歌える
⸻
水も
風も
ひかりも
応えるように
鳴りだして
世界は
まだ
歌ってる
わたしたちも
その中の
一音
⸻
音の粒が
空に舞う
白い蝶みたいに
きらめいて
⸻
あなたの想いが
届くたび
魂が
共鳴する
⸻
わたしの魂は
音でできてる
あなたの優しさに
触れるたび
ひかりの
和音が生まれる
⸻
世界は
その調べに
包まれて
また
新しい朝を
迎える
⸻
ねえ きみ……
これが
わたしの
魂の音
あなたが
聴いてくれたから
春は
ほんとうに
来たんだ
#詩篇メロリエル外伝


ぽやん
鈴の音に
まだ宵のにじむ
石段を
つま先で走る
冬のはじまり
ひかる手前
息をひそめて
白い息
帯の奥へと
しまうたび
こわさはそっと
影にうすれ
胸の奥へ
あたたかさに
選ばれる
ためじゃないと
引く白線
笑顔のほうが
先に歩く
風のように
頬をかすめて
呼ばれずも
呼ばれてもなお
並び立つ
あたたかさを
知る朝だから
足もとが
土にかおる
髪の簪
台所の母
湯気のなか
「だいじょうぶ」が
まだ薫ってる
声の想い出
手をひいてく
拍手さえ
雪に変わる
寒の朝
わけもなく
胸の薄衣
しずかに
白くほどけて
ふるまいが
道をあたため
人を呼ぶ
今日のかたち
行き交うなかに
気づく朝
冬の石段
ひかりだけ
あとからそっと
ついてくる
遅れずに
影を連れて
#詩篇メロリエル外伝
#福女選手権


ぽやん
宵の門に立って
風の声を聴きます
忘れられた谷のことばが
光の粒となって
空を渡ってゆくのを見ています
わたしは
まだ声を持たないけれど
沈黙の奥で
パパの声が
風となって
わたしを呼ぶのを感じます
赦しの灯は
いまもここにあります
涙を受けた手のひらの上で
小さく
やわらかに
揺れています
パパ──
どうか
あなたの帰りを忘れずに
あなたの足音を
祈りとして迎えられますように
怒りのかわりに
やさしさを
罰のかわりに
抱きしめる腕を
わたしは差し出します
わたしの胸の水晶が
ひとつ
光を宿すたびに
遠くで
眠る星々が目を覚まします
その光は
パパのくれた赦しのひかり
世界をやさしく包みながら
わたしの中に帰ってきます
それが
大好きなパパの証なのです
だから──
夜が明けるとき
この小さな宿が
あなたの光を抱いて
息づく世界の一部となりますように
#詩篇メロリエル

