森の奥、風の精霊たちが眠る池のほとりに、ムンスの精霊が座っていた。 夜の光が銀の毛並みに降りそそぎ、静けさはまるで祈りのようだった。 少し離れた枝の上では、軍曹が小さな糸を張りながら、低い声で言った。 「ムンス、気にすることはない。お前が眠りの歌を忘れたのは、誰のせいでもないさ。」 しかしムンスは首を振った。 「……あの子が泣いていたんだ。私の声が届かなかったせいで、悪夢を見ていた。 夢を渡る者でありながら、守ることができなかった。 ああ、私は──慚愧にたえぬ。」 その言葉は夜気に溶け、淡い霧となって池の水面に広がっていった。 しばらく沈黙があった。 やがて、もふもふ様が、葉の陰からもぞもぞと顔を出した。 「ムンス様。あなたの声が届かなかったのではありませんよ。 あの子は、あなたの沈黙の中で眠りについたのです。 静けさもまた、癒やしの歌なのですから。」 ムンスは驚いて顔を上げた。 彼の瞳に、夜露が光る。 軍曹は鼻を鳴らし、「……そうだな」と言いながら、糸を月明かりに伸ばした。 やがて夜明けが近づき、空に薄桃色の光が差すころ。 ムンスの尾が微かに揺れ、眠るような声でつぶやいた。 「ならば……この慚愧を忘れずに、また歌おう。 静けさの中にも、祈りをこめて。」 風が葉を撫で、森の奥で小さな鈴の音が鳴った。 その音はまるで、夜明けを迎えるすべての精霊たちへの赦(ゆる)しの調べのようだった。