夜道、歩いていたら『バンッッッ』とものすごい音が近くで聞こえた。驚いて、えっ!?と顔を上げると目の前で宙に浮かぶ男性。白線に沿って平行に華麗に暗闇を裂いて飛んでいった。なるほど、横断歩道の歩行者用信号は青。車はよろめいて止まり、サイドウインドウを降ろして見えた人影は赤い爪に煙草を挟んでいた。一瞬その表情に動揺が伺えたが、虚ろな目にうつるのはヨタヨタと自ら立ち上がる男性だった。車は走り去っていく。私はナンバーを控えた。4メートルほど飛ばされたその男性は、声をかける間もなく覚束ない足取りでそそくさと去っていった。当て逃げの一部始終です。