ある人の靴下が左右色違いであることに気がついた。お節介さんは伝えた。「あの、左右の靴下、間違ってませんか」「いえ、こういうデザインなんです」お節介さんとすれ違う度にこの問答をするのだろうか。あるいは、「あの、左右の靴下、間違ってませんか」「そうなんです。先程、ほかの方にも教えていただいたんですけど、靴下の予備がすぐ用意できなくて…」どうしようも無いのに、正すまで指摘され続けるのだろうか。 ある人はトゥースジェムをしていた。「あの、失礼ですが、歯を磨かれた方が良いかも知れません」「あぁ、これはトゥースジェムという歯のアクセサリーなんです」流行りに疎かった。本当に失礼になってしまった。ある人は独特なセンスで右半分だけ髭を剃っていた。「あの、半分、剃り残してませんか」「わざとです。貴方みたいな、自分の常識を他人に押し付ける人を篩い落とすのに役立つんです」そりゃ本人が気付いていない訳が無い。なんという罠か。ある人のスカートが捲れていた。「あの、スカート、大丈夫ですか」「!! あ、ありがとうございます!」生活習慣の怠慢やうっかりミスの指摘/修正とは違う。スカートの捲れは流石に事故だろう。----お節介は、親切ではない。お節介とは、他人の意図や選択を尊重せず、自分の常識や正しさや不満を善意の形で押しつける行為である。見ず知らずの人への親切とは、明らかな事故や損失を防いだり困難から救済したり、またそれを成す為の助力としての通知や提案であるべきで、意思や判断は基本的に相手に委ねる形式を取らなければならない。また、半ば強制するかのような提案が親切として機能するのは、相手の状態が、相手が望む思想や目標から乖離してゆく状況を矯正するような場面であり、相手の背景を知らずしては親切たり得ないのである。だから、こういうお節介を掛ける時は普通、良く見知った間柄の人に行うべきで、伝えるべきか少しでも迷うようであれば、基本的には何も言わないのが良いのである。by かきつばた