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ナツキ
お気に入りクレストはどんな物を使ってますか?
私は現在「収奪者」が肌に合う為使っており、
青を増やしたくてロケット✖︎1使用し、
ドルイドの眼とポリップのポーチ入れてます。
まだまだ新参者の為、この先のクレストは
分かりませんが、未修得(私)のクレスト込みで
扱い易さや効果でご教授頂ければ幸いです。
主な理由は、
上記の通り、既に作中で手に入るロケットを
1つ使用している為、先行き収奪者よりも
扱い易いクレスト手に入れた際に「作中で手に入るロケット上限」により、ロケット不足になるのでは無いか?と不安になってしまいまして💧
現在スマホが古い為ガタ来ており、youtubeが
まともに見れない為、情報収集困難なのも
理由の一つです💦
先生であり、御先輩方、
お手数ですが、宜しくお願い致します。
#シルクソング
#クレスト
#先行きの不安
#1使用によりロケット不足にならないか?
#教えて頂きたいです

虚無

な²
クレスト壊したいのかな

御杉

たくじ

かじ。

たら
そのクレスト置き場におくけど別にクレストではない信仰
クレストではなくて重複もするベルゼバブの永続効果
もう少しなんとかならんかったん…?

ドラミ

ゼロツ
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天月 兎
第三十四話 後編
雪崩れ込む魔物を、焔の蛇が噛み千切っていく。
ゲートが閉じる様子はなく、延々とそこから魔の群れが吐き出されているかのように見えた。
自分一人でどこまでやれるか分からないが、クレストの背中だけは守りたい。
身体強化の術を更に重ね、空飛ぶドラゴンや吸血鬼すら、跳躍して斬り散らす。
その間に隙ができた地上に戻るや否や剣を振って、振って、振り続けた。
上から見れば、空にも地にも、半円状にクレストの背後だけ敵がいない空間が出来上がっている。
正直、ルーヴェリアやクレストと比べればアドニスの力は肩書き負けの部分が多かった。
幼い頃からルーヴェリアに剣を教えられてきたとはいえ、やはり成長には限度というものがあったのだ。
永遠に肩を並べることは出来ないと、挫折しそうになったことだってある。
だから魔術も磨いた。
アドニス「裂き散らせ!」
焔の蛇が喰い損ねた獲物を中空を走る稲妻で屠る。
アドニス「沈み失せろ!」
それでも足りない時は、水球に閉じ込めて圧死させて。
アドニス「貫き砕け!」
まだ不十分なら、地面を突起させて串刺しにし、内側から爆裂魔術で四散させた。
凄まじい魔力の消費量ではあるが、どうせ持ち得る全てを放ってもあのゲートを破壊するには至れないなら、全てを賭けてクレストの背中を守ることに徹した方がいい。
冷や汗が滲む。魔力が尽きかけているのか。
先程から早鐘を打つ心臓に合わせて胸部が痛むのが原因か。
どちらか分からないが、関係ない。
目の前に現れる敵を蹴散らすだけだ。
焔が小さくなり、稲妻が遅くなり、水球は消え失せ、最早大地も呼応しない。
なら更に身体能力を向上させ、剣で斬り、鞘で砕いて、少しでも多くの敵を葬ればいい。
剣が折れたなら、転がった魔族の腕でも振ってその爪を利用してやろうとさえ思っていたその時、夕陽を反射して黄金色の髪を靡かせる女神の姿が見えた。
ゲートの向こう側から無数の光矢が放たれ、目の前に居た敵諸々を木っ端微塵にしていく。
女神は自分の側に舞い降りて、その腕の一振りで数多の闇を払い除けていった。
アドニス「ごめんなさい、師匠。なんか、よく分からないんですけど、体が重くて…」
魔力が枯渇したのか、疲労なのかは分からないが、剣を地に刺して支えにしないと立てないくらいに疲弊していた。
ああ、全身が痛い。身体強化の代償だろうか。
ルーヴェリアは気にするなと言うように首を横に振った。
目の前のゲートは漸く閉じ、残った敵は全てルーヴェリアの剣が八つ裂きにしていく。
その時、砦がガラガラと崩れ落ちた。
肩越しに背後を見やるが、クレストは微動だにしていなかった。
ルーヴェリア「クレスト!魔力枯渇なら後退してください!」
いつもなら素直に従う筈なのに、一切の応答も無かった。
そこで不信感を持つべきだったのだが、目の前に魔族の牙が迫ったため反射的に剣を振ったせいで敵と一緒に吹き飛んでいってしまった。
そうして、残りの敵も全て片付け、クレストの目の前にあったゲートも消失したのを確認して、防衛戦はひと段落終えられた。
鉛のように重たかった体は喜びと安堵で軽くなり、ルーヴェリアと二人でクレストの元へ駆け寄る。
アドニス「クレスト!良かった…無事で」
息を吐くと同時に、凍りついたように動かなくなったルーヴェリアに気がつき、視線を改めてクレストに戻す。
クレストは、死んでいた。
両目から、鼻から、口から、耳から、血を流して。
胸元には大きな風穴が空いていて。
いつも穏やかに微笑んでいたあの顔は、記憶の中ですら苦しげに血を吐いていた。
なんで、どうして。
だって背中は守ったじゃないか。
元からクレストの援護に回ってから師匠はこっちに来る筈だった。
師匠が本国西門に駆けつけてくれたということは、その時はこっちの戦況は落ち着いていたということで。
吐き気を催すほど思考が渦巻いて、何が何だか分からなくなる。
ルーヴェリア「…サフラニア西門防衛無事完了、騎士団への被害はありましたが、民衆は無事です」
唐突に報告を始めた彼女に、首を傾げる。
どうして今更戦況報告をするんだ?
だって彼はもう…
ルーヴェリア「第三騎士団長クレスト・アインセル。防衛戦は無事突破、戦闘終了です。……お疲れ様でした」
そう言うと、クレストの体はやっと崩折れて、地に臥した。
ああ、そうか。
クレストの意思はまだ死んでなかったんだね。
師匠はもう休んでいいと教えてあげたんだ。
僕はやっぱり、まだまだだなぁ…。
視界がぼやける。
疲れからくるのか、別の何かなのかはわからない。
ただ、膝から下に力が入らなくなってしまった。
あれ、おかしいな。
そう思った時にはもう、何もかもが手遅れだった。
地に膝をついたアドニスの吐息に大量の血が混ざった。
ルーヴェリア「え……」
外傷は見当たらない。
魔力干渉も感じない。
先程治癒の術を施したので身体強化によって傷ついた臓器は回復できた筈だ。
なのに何故、彼は血を吐いて膝をついている?
ルーヴェリア「殿下、肩を」
一先ず帰還しなければ。
クレストには申し訳ないが今は国の未来を担う彼を手当するのが先だ。
治癒の術も意味がないのに、どうやって?
浮かぶ疑問を頭を振って打ち消し、アドニスに近付いた時だ。
嗅ぎ慣れた嫌な匂いがした。
虫が集る程に甘く、吐きそうな程に嗅覚を突き刺す、腐臭。
まさかと思い彼のブーツを脱がせると、その皮膚は血の塊が透けて見えたような色をしていた。なんと呼べば良い色なのか、褐色とまではいかない、暗い赤紫色だ。
触れると氷よりも冷たい。
よく知っている体温。
ある一つの仮説が浮かぶ。
治癒が効かない時点で既にその顔を覗かせていた言葉が、嘲笑するように心中に響き渡る。
ルーヴェリア「呪…詛…」
自分にもかけられたもの。
なんとかして打ち砕かんとして、でもどうしても、何をしても解けなった呪い。
でもこれは不老不死の呪いじゃない。
不老不死の呪いじゃないなら宮廷魔導士か彼の母親なら、王妃なら解呪出来るかもしれない。
自分の側に膝をついた女神がぽつりと呟いた言葉さえ、アドニスの耳にはもう遠い。
ルーヴェリア「急いで城に…ああでも…」
珍しく焦燥している彼女を見た。
アドニス「師匠、何か気にかかることでも…?」
自分の状態に気が付かず、そう言ったつもりでいた。
彼女からの返答はない。
それもそうだ、彼は喋ったつもりでいるが一言も発せていないのだから。
そのまま体を持ち上げられて、出来るだけ振動が伝わらないよう、それでいて出来るだけ早く走った。
ルーヴェリア(でも、現在地から城までこの速度で走っていたのでは馬より遅い…!次元移動は使えない。殿下の体が耐えられない)
そういえば、付近に本国へ通じている川がなかったか。
ヘルベ湖から降れば。
それに観光地にもなるからと舟を渡せるよう整備された川は障害物も無かった筈だ。
アドニス「師匠…?一体何をしているんですか?ちょっと休めば歩けるようになりますけど、火急の案件なら置いていっても…」
そう話しかけるのに、ずっと呼んでいるのに、彼女は何も言わずただ前だけを見て走り続けている。
何故か布でぐるぐる巻きになっている胸元からは、止まっている筈の彼女の鼓動が早く脈打っているのが聞こえた気がした。
ルーヴェリア(急拵えのボートで辿り着くまでには、早くても3日はかかる…でも走るよりは早い……それまで殿下のお体が保つかどうか…!)
森に入り、湖の近くの木に背がもたれるようにアドニスを降ろした。
いくつかの大木を蹴りでへし折り、魔力で縄を編んで筏を作る。
ちらとアドニスの方を見やれば、暗い赤紫色だった脚は既に皮膚が溶け始めていた。
胸が苦しい。嫌だと泣き叫びたくなるようなこの感情をなんと呼べばいいのか、遠い昔に捨ててしまったからもう分からない。
急拵えのそれは筏とも小舟とも呼べないものだが、魔力で多少推進力を上げても問題無さそうなくらいには丈夫なものが出来上がった。
アドニス「師匠…?」
そこに乗せられたアドニスは、初めて自分の意思で自分の体が動かないことに気がつく。
全身が鈍く、鋭く、痛んだり痛まなかったりして、何か異常が起きているということだけは分かった。
きっと、先程から声をかけているのに返事をしてくれないのは、自分が喋れていないからなのだろう。
そうか、だからこんなに焦っているのか。
先程の戦いで自分の隣に立った彼女は、真っ先に治癒の魔術を施してくれた。
でも、いつものように体が軽くなることはなくて。
ああ、心臓が痛い。
心臓から全身に広がるように、鈍くもあり、鋭くもある痛みが駆け巡っていく。
ボートはルーヴェリアと死にかけのアドニスを乗せて動き始めた。
魔術で推進力を多少上げてはいるが、大きなヘルベ湖のほぼ真ん中あたりから舟を進めるのだ。
どうしても時間はかかってしまう。
彼の脚を切り落とせばなんとかなるかとも思ったが、指先までもがあの色を帯びているのを見て、諦めた。
星が瞬き始める。
せせらぎと、時折軋む木の音が聞こえる。
ルーヴェリア「…殿下、私の声はまだ聞こえますか」
アドニスはギリギリのところで動かせる瞼だけ、一度閉じて開くことで返事をした。
ルーヴェリア「殿下のお体は、昔の戦いで私達が常用していた体を腐敗させる魔術に蝕まれています。ただの魔術なら、私ならば治癒の魔術で打ち消すことができますが…」
筏を作りながらも、彼の体が保てるよう既に十数回は試している。
ルーヴェリア「残念ながら、私には治せないもののようです。腐乱の魔術を呪詛に昇華させたのでしょう。一定の期間をかけて蝕むか、発動条件が満たされた場合に侵蝕が始まるのか、術者の意思で自在に操れるのかは分かりません」
自分の呪いすら解けないのに、他人にかかった呪いが解けるわけも無かった。
そもそも魔力に宿る残留思念が呪詛に関わるということまでしか解明できなかったのだ。
こんなに、何十年と研究してきたのに。
副産物として次元に干渉する力を手に入れたりするだけで、肝心のものについては何一つ分からなかった。
ルーヴェリア「王妃様や宮廷魔導士なら解呪できるかもしれませんから、今から急いで城に戻ります」
悔しさに歯噛みする。
強く閉じられた唇に、そんなに思い詰めないで欲しいと指を添えてやりたいところだが、残念ながら体は動かなかった。
ルーヴェリアは考える。
今自分に出来ることはなんだろうと。
ここは鍛錬場ではなく戦地だ。
腐乱して跡形も無くなってしまっては、蘇生することも、出来ない。
だからせめて、せめて彼が心安らかでいられるようにしたい。
そんな思いからルーヴェリアは口を開いたのだった。

天月 兎
第三十四話 前編
何だろう、水の音が聞こえる。
さらさらと静かに流れるような音だ。
それと、時々扉が軋んだ時のような音。
いつか夢で同じようなものを見ていた気がする。
それと、ずっと語りかけてくる声もあった。
あの時はただ女性の声としか分からなかったが、今は何故かはっきりとわかる。
ルーヴェリアの声だ。
どの音も、耳に水が入ってしまった時のようにくぐもっていて、はっきりとは聞こえないけれど。
目の前には、少し早く雲の流れる空…が見えているはずだ。多分これはそうだと思う。
はっきりしないのは、厚いすりガラス越しに何かを見ているかのようにしか見えないからだ。
鉛のように動かない体。
指先一つ動かすこともできないし、聞き取りたい音もはっきりとは聞こえない。
でも、あの夢と全く違うことがあった。
それは痛みがあることだ。
鼓動が一つ拍動するごとに、心臓のあたりから全身にかけて、何かが根を張っていくように鋭い痛みが広がっていく。
けれど苦悶の声をあげることすらままならなかった。
だんだんと意識が閉ざされていくようで。
ちゃんと、ルーヴェリアの話を聞いてあげたいのに。
彼女の声を、言葉を、聞いてあげたいのに。
瞼がひどく重くて、心に背いた体はそれに従って視界を暗闇に染めた。
それでもずっと、聴覚は水のせせらぎと彼女の声を聞いていた。
ずっと、ずっと、ずっと聞いていて……いつしか聞こえなくなった。
閉じた瞼の裏に、あの時のことが甦る。
防衛戦で、自分は4万の騎士団を率いて南方から押し寄せる20万の軍勢に立ち向かった。
アドニス「湖を渡らせないよう、弓兵と魔導兵は攻撃を絶やさないで!山脈から来る敵は僕と歩兵で蹴散らすよ!騎兵隊は遊撃に、基本的に負傷者の回収をして看護兵のところに連れて行ってくれ!」
本隊ではなく主力も居ない魔族の軍は、降り頻る鏃と魔法矢の雨に阻まれてヴィト・リーシェ湖を渡り切ることが出来なかった。
しかし何故か迂回するという選択をとらず、ただ死体の山となって積み重なっていくだけだ。
エレゾルテ山脈の麓では歩兵らが魔獣の角を叩き折り、爪を割り、四肢を切り裂く。
アドニスは炎を纏わせた剣を振るい、屍人と植魔を蹴散らしていった。
何物をも焼き尽くす劫火では、地に足がついている植魔でさえ灰燼に帰してしまう。
一歩踏み込めば、剣先より放たれた焔は顎を開いて敵を呑み込み、呑み込まれた敵は悉く塵となって空を舞った。
腹を空かせた猛獣のように、焔は次の獲物を絡め取るよう走っていく。
数の差は大きいが、こちらが圧倒的に有利な状況であった。
負傷兵も出たには出たが、高速移動に長けた騎兵隊と後方にいる看護兵の援護によって戦線復帰も早い。
アドニスは考えた。
もし自分が敵側なら、この状況を打開するために何か別の策を講じてくる筈だ。
突破を目論むなら、消耗一方の戦いになることは避けたい筈なのだ。
なのにどちらの戦線も突撃を繰り返すのみで、どこか違和感を感じる。
開戦から数時間経っても、だ。
何か別の目的があるのではないか、そう予見した時、最後方、つまり自国に巨大な魔力反応を感じた。
振り返ったアドニスが目にしたのは、王都の空を覆い尽くすように広がるゲート。
アドニス「時間稼ぎだったか…!」
しかしこの戦線は維持しなければならない。
自分だけでも国に戻るか、否か。
しかしゲートは皿が割れるように破壊された。
ゲートの破壊にはそれなりに多量の魔力が必要な筈だが…いや、そういえば。
ルーヴェリアが王妃にゲートを破壊できるほどの魔力を込めた短剣を渡していたか。
アドニス「良かった、流石師匠だ」
安堵の笑みを浮かべながら背後に忍び寄る死霊を斬り伏せる。
敵の目論見が破壊された今、自分達がすることは防衛戦ではない。
アドニス「ここからは殲滅戦だ!!残さず狩り尽くせ!!」
号令と共に高まる士気。
威勢の良い声が半数まで削られた魔族らを押し返し、一体、また一体と命を刈り取っていく。
そうして、日が沈んできた頃。
西門付近にゲートが開いたと報告があがる。
ヴィト・リーシェ湖付近を堅めていた騎士団数千名を派兵し、山脈の方に向き直った時だ。
脳裏に、大量の魔族の群れが過った。
砂漠にも似た荒野、聳える砦と立ち塞がる老騎士、その背後に開くゲート。
直感だ。確証はないが確信する。
クレストが危ない!
アドニス「師匠はなんて!」
近くの兵士に声をかける。
「既に西門の援護に来てくださいました!」
アドニスは一つ頷くと、この戦線は彼女に任せ、クレストの援護に向かうと言い残して馬を走らせた。
早く、早く行かないと。
いつか講義で教えてもらったんだ、昔、とある騎士が使っていた砦の魔術。
前方に広がる敵を蹂躙することに特化した牢獄のような砦。
だがその弱点は、砦の外側、主に背後だって…!
何か、胸元がずきりと痛んだ気がしたが思考を遮る程も強くはなかった。
馬より早い脚を持ったルーヴェリアやクレストが羨ましい。
こんなに急いでいるのに、過ぎ去っていく景色が遅く見えてしまう。
地平線の彼方では、既に陽が半分ほど溶け落ちていた。
その前に!!
少し時間はかかったが、クレストの背後に滑り込むようにして馬から降りる。
同時に目の前でゲートが開いた。

🪼うみ

天月 兎
第三十三話 後編
「緊急!サフラニア西門前にゲート出現!」
一気に空気が張り詰める。
同時に、砦の上空にまたゲートが開く。
クレスト「行ってくだされ、師よ」
ルーヴェリア「しかし王都西部には貴方の家族が…」
誰よりも駆けつけたい筈だ。
クレスト「師の方が足が速い。それに私はここを動けませぬ」
一瞬の沈黙。
しかし、クレストの「行け」という視線には勝てない。
ルーヴェリア「必ず守り抜きます」
そう誓って、空間と空間を繋げて西門の前へ飛び出した。
幸いにも、アドニスの率いていた騎士が数百名ほど応戦していたため、門が破られることは無かったが、確実に戦力は削がれていた。
疲れ切った騎士たちの様子を見るに、アドニスの戦線も雑魚を蹴散らすだけとはいえ数の差で疲弊させられていたのだろう。
ルーヴェリア「生存者は後退、残りは私が片付けましょう」
魔族を殺すためだけに作られた、謂わば聖剣とも呼べるルーヴェリアの剣に斬烈魔術を付与した。
一振りすれば、一体の魔族に当たった斬撃は近くにいた別の魔族も切り裂き、更に連鎖して最終的には何千もの魔族を葬り去る。
「こ、これが…騎士団長の力…」
アドニスの攻撃も凄まじいものではあったが、ルーヴェリアのと比べるとやはり劣っているように見えてしまう。
二つ、三つと斬撃が飛んだかと思えば、魔族の姿はいつの間にか消えていた。
ルーヴェリア「…?」
確かな手応えがあったのに、死体すら残っていない。
ルーヴェリア「!」
これは幻覚、罠だ。
クレストを殺すための罠だ。
砦の内側に出てきた魔族は防げようが、挟み撃ちされたら!
ルーヴェリア「殿下に引き続き王都周辺の警戒を行うよう伝えてください!」
騎士は首を横に振った。
「実は…大きな魔力反応があったため、そちらに向かうと…東方なのでクレスト団長の守備しているところかと……」
自分がここに駆けつけたから平気だと思ったのだろう。
そんなわけがない。
アドニスはまだ荒削りで、たった一人で馬で駆けつけたところで数に押されるのがオチだ。
しかし、自分がここを離れたら?
王都は誰が守る?
行かなくてはならない、しかし行けるような状況ではない。
いつゲートが開くか分からないのに。
数名の騎士が、ルーヴェリアの前に並んだ。
「行って下さい、ルーヴェリア様」
「我々全員、覚悟はできております」
駄目だ、生き延びてもらわなくては困る。
今までそう散々教えてきたつもりなのに、騎士達の視線は揺らぎも淀みもなくて。
初めて、自分の心が生かす、殺すで揺らいだ。
死ぬために戦わせるのではなく、生きるために戦ってほしい。
死後の名誉に何の意味がある。
何の意味もない。
そんなものに命をかける必要なんてないのに。
それなのに彼らは、そうすることが最善だと信じて疑わない目をしていた。
ルーヴェリア「…残存兵力は」
「2000と少しです」
ルーヴェリア「……各、方面に、500ずつ配置…支援部隊は中心に置き、奇襲を防ぐよう努めて下さい……」
初めて、指揮する声に震えが混じる。
嫌だ。死にに行くようなことをさせたくはない。
ぐっと拳を握りしめた。
ぽたぽたと地面に血が滴るが、痛みは感じない。
嫌だ。今までこんな命令を下したことは一度もなかった。
それなのに。
「ルーヴェリア団長、我々は決して死なない」
っ……。
…ああそうだ。死んだとしても、後世に残った数多の人間がこの戦いを語り継ぎ、国を守るために散った騎士たちを讃えるだろう。
そうである限り、彼らの魂は、意思は、永遠に死ぬことはない。
ルーヴェリアは唇を噛み締めた。
そして声高らかに叫ぶ。
ルーヴェリア「サフラニア騎士団諸君に次ぐ!!」
呼気で血が飛ぶほどに強く。
ルーヴェリア「死んでも、守れ!!!」
喉が裂けんばかりに声を張った。
威勢の良い声が上がり、各方面へと団長のいない騎士たちは東西南北全ての門の前に陣を構える。
そしてルーヴェリアは、踵を返してクレストの方へと舞い戻った。
青い炎を纏った剣を地面に突き立てて肩で息をしているアドニスと、その前方に蔓延る無数の魔物たちが見えた。
魔術の矢で奇襲を仕掛け、背後から蹴散らしながらアドニスに治癒術を施す。
アドニス「ごめんなさい、師匠。なんか、よく分からないんですけど、体が重くて…」
初めての長期戦で体が疲労しているのだ、無理もない。
クレストの方は問題なく片がつきそうなので、こちらも残党を一掃する。
その時、砦がガラガラと崩れ落ちた。
魔力で形成されたそれは、使用者の魔力が無くなれば、崩壊する仕組みなのだ。
それでも、クレストは微動だにしなかった。
ルーヴェリア「クレスト!魔力枯渇なら後退してください!」
不信感を抱いたルーヴェリアが、クレストに声をかけるも、返答はない。
彼は別の光景を見ていたからだ。
ああ、師は食にこだわりのない人でしたな。
マルス「よ、ルーヴェ。ん?飯もう出来てたっけ?何食ってんだ?」
ルーヴェリア「ベヒモスの腕です」
マルス「…は?」
ルーヴェリア「少し噛むのに力は必要ですが、問題なく食べられます。私の分は不要なので、他の兵士に分けるよう調達班にご伝言願います」
マルス「そ、それはいいけど……その、いつ捕ったんだ…?」
ルーヴェリア「戦いの途中で引き千切りました」
マルス「……ま、まあ、体調悪くなんないならいいや。は、はは…」
戦の面においては優れた才とも呼べますが。
ルーヴェリア「………」
ディゼン「ルーヴェリア、今何捕まえた」
ルーヴェリア「虫です」
ディゼン「で、それを今どうした」
ルーヴェリア「食べました」
ディゼン「お前の胃袋がバケモンなのは分かるがな、もう少し周りに配慮して食ってくれ……見ろよ後ろ。全員顔青くしてるぞ」
ルーヴェリア「分かりました。配慮します」
私が本格的に舌をどうにかしてやらねばと、料理本を漁るようになったのもこの頃でしたな。
ソーリャ「ん?その袋なあに?」
ルーヴェリア「非常食よ」
袋を開いて見せると中には大量の蠢く虫達がいた。
ソーリャは卒倒する。
ディゼン「周りに配慮しろっつったろ…!」
ルーヴェリア「美味しそうに沢山食べていたら美味しそうだと思ってくれると考えたのです」
ディゼン「違う、そうじゃねえ()」
いつぞやは、魔道具の出来を確かめるために山頂を平らにしたこともありましたな。
アドニス「あのー、師匠?」
ルーヴェリア「何でしょう。あと、ルーヴェリアです殿下」
アドニス「テオの戦った後のアルゼトを見たんだけど、国を中心に周囲に巨大な穴みたいなのが空いた地形になってて…もしかして…魔道具渡しました?」
ルーヴェリア「ええ、中程度の威力を発揮する物を渡していましたのでそれかと」
アドニス「……そのうち山一つ吹き飛びそう…」
ルーヴェリア「ケレテス山脈の頂上、平らですよね」
アドニス「え?ああ、そうだね。陣幕が構えやすいくらいに平らだけど…」
ルーヴェリア「あれ犯人私です」
アドニス「……もう、言葉が出ないです師匠…」
ルーヴェリア「ルーヴェリアです殿下」
なんて、死ぬ直前にしては良いものばかり見るな。
妻達はきっとルーヴェリアが守ってくれる。
あそこにはまだ、騎士団たちも残っているだろうから。
安心してここで散って良い。
ルーヴェリアには、手袋を贈ることができたから。
鼓動が悲鳴をあげている。
知ったことではない。拳を振るう。
心臓が限界を訴えている。
知ったことではない、拳を振るう。
過負荷に耐えられず、目から血が吹き出した。
構わない、拳を振るう。
ああ、心臓が煩い。
こんなもの、もう必要ない。
老騎士は自らの心臓を抉り出して魔力として吸収した。
背後で戦っているアドニスやルーヴェリアはまだ気が付いていないようだった。
破壊鉄球にこれでもかというほどの魔力を、それでも残り少ない魔力を込めてゲートにぶん投げた。
魔王の目の前に飛んできたそれは、間一髪のところでサーシャが短剣で弾き、魔王は慌ててゲートを閉じた。
鏡越しに見た老騎士は確かに魔力が切れている。
己の治癒すらまともに出来ないほど。
そうして重ねてかけられた身体強化の魔術は、確かにあの老騎士の体を破壊し、理性すら飛ばしてしまっただろうに。
それなのに何故、あの者は何時間と耐えているのだ。
右腕は腱が切れ、左腕も腕から先がないので拳は振るえない。
それでも止まらなかった。
クレストは、足蹴にすることで敵を打ち砕き続けた。
ゲートが閉じ、魔物が視界から消え去っても尚、此処は通さないとばかりに彼方を睨みつけている。
クレストの背後を守ることに必死だった二人は、残敵掃討後も変わらず仁王立ちしている彼に駆け寄った。
アドニス「クレスト!良かった…無事で」
安堵の息を吐き出すアドニスに対し、ルーヴェリアは空気を喉に詰まらせる。
違う。もうない。クレストには心臓が、ない。
音がしない。
両の目から血を流し、光を失ったそれは、けれど確かに敵の姿を探し続けているように見える。
凍てついた空気に静寂が訪れた。
クレストは変わらず砦があった場所の向こう側を見つめ続けている。
ふと、ルーヴェリアに手袋をプレゼントされた時の記憶が蘇った。
──再会の時まで、私が決して倒れることはありません。
本当でしたね。
約束を守って、貴方は…。
私が来なければ、ここで永遠に生きていたんだろうか。
否、それは愚問だろう。
体を刺すような冷たい風が通り抜けていくのを感じながら、ルーヴェリアはクレストの前に立つ。
ルーヴェリア「…サフラニア西門防衛無事完了、騎士団への被害はありましたが、民衆は無事です」
唐突に報告を始めたルーヴェリアに、アドニスは首を傾げた。
ただクレストの遺体を焼くために、城に連れ帰れば良いだけなのに、何故戦況報告をするのか、分からなかったからだ。
ルーヴェリア「第三騎士団長クレスト・アインセル。防衛戦は無事突破、戦闘終了です。……お疲れ様でした」
そう言うと、クレストの体はやっと崩折れて、地に臥した。
唯一心残りなのは、あのパンケーキを作ってあげられないこと。そして、妻と…娘の……。
だから守り切ったと報告を聞くまで決して倒れたりしない。
たとえこの体が死んでも、お前達魔族を通すことはしない。
そんな覚悟が、伝わってきた気がしたから。
今はどうか安らかに。
戦いの行く末は七将を討ち取ったことで私たちの勝利がほぼ約束されているようなもの。
負けるはずがない。
行きましょう、殿下。
そう言いかけて、動きが止まる。
アドニスもまた、膝をついて息を荒げていたから。

天月 兎
第三十三話 前編
最初は、壁を登って越えればいいと思っていた。
でも、乗り越えるにはあまりにも高すぎた。
空の遥か彼方まで伸びた壁は、城砦のそれよりもずっと堅固で、ずっと高かった。
だからその壁につけられるにはあまりにも小さすぎる門を通り抜けるしかなかった。
人一人が通れる程度の門だ。
けれど誰一人その門を通り抜けることは出来なかった。
その拳は全てを斬り伏せる剣であったから。
その拳は遍くを砕き伏せる槌であったから。
その拳は悉くを貫き伏せる槍であったから。
傍に転がる、自分達を殺すためだけに作られた鉄球なんて安物の包丁だ。
誰かが言った。
「あそこに行っても死ぬだけだ。迂回しよう」
けれどそんなこと、出来るわけが無かった。
あの壁は既に自分達を包囲していたから。
結局、鬼門に挑むしか道は無かった。
飛びかかる魔性の群れに拳が突き出されれば、巻き起こった風は衝撃波という刃となって他者を巻き込み、殺戮の限りを尽くしていった。
「くそ!後方援護はどうなってる!奴の動きを止めさせろ!」
群れをまとめていた者がそう言うと、側近が恐る恐る口を開く。
「あの壁が現れた際、巻き込まれて……」
全滅した、と。
ルーヴェリア達と別れ、王都から馬を飛ば…すより走った方が早かったので、クレストは文字通り走って戦線を見渡せる位置に到着した。
ヘルベ湖、ア・ヤ湖の合間を抜け、いまやもぬけの殻と化したカルシャ村から索敵魔術を行使する。
敵の進軍は発見された位置よりあまり動いていないように思えた。
陽動のための軍、そして平坦になったテフヌト族領を徒歩で進軍すると考えれば機動力はそこまで重視されなかったのだろう。
陣形は円、中心に少しばかり大きな魔力反応があることから、あれらを指揮している者は中心にいる。
だが進軍方向は前方であるが故、接敵した際を案じてか後方に支援魔術に優れた植魔と吸血鬼達を置いたらしい。
欠けてはいるが、まだ使い物になる程度の短剣を戦力として見ているあたり、魔王はそれなりに慈悲深いのかもしれない。
さて、敵の陣形等が分かれば後はやる事をやるだけだ。
クレスト「マルス団長のお力、少しばかりお借りしますぞ」
にっと笑った老騎士は、持ちうる魔力を大きく消耗させながら、敵から身を守るためではなく、敵を殺すための砦を文字通り顕現させた。
クレスト「空間把握、指定」
敵陣の後方を潰しながら、包囲できる位置に。
クレスト「存在固定、城砦概念付与」
敵がゲートを開いて逃げることも出来ないように、その存在を人間界に固定する。
そして大地に、堅牢な砦の意味を持たせた。
果てしなく高い壁、抜け出す余地など持たせない石造りの地下牢、生きながらえさせるのではなく、飼い殺すための牢獄。
出口は、自分が立つこの場所だけにして。
クレスト「建立せよ!否生の砦」
魔族らのいるヤ・クルヌ村付近の地面が大きく揺れた。
ただの地震だと思っていたが、すぐ真横に雷が落ちたのではないかと錯覚するような音が轟いたと思えば、地面が盛り上がり、高く聳える崖のように自分達を囲い込んでいた。
10万の軍勢を、囲い込んでいたのだ。
困惑した矢先、出口らしきところに人間が一人だけ立っていることに気が付いた。
その人間は肩に担いでいた鉄球を地面に転がして仁王立ちしている。
クレスト「人の言葉が通じるのならば、貴様ら魔族に教示しよう。私を倒すことだけが、この場所から抜け出す唯一の道だ」
相手はたった一人。
恐れるものなんて何もない。
1匹の魔獣が飛び出してその首に噛みつこうとした瞬間。
その魔獣は頭部から全身が弾けた。
弾けた後に、パン!という乾いた音が聞こえてくる。
自分達なら飛んで抜け出せるだろうと考えた吸血鬼が空を目指すが、どこまで飛んでも壁は目の前から途切れることはなく。
囲われているために迂回するという道も塞がれ、何故かゲートも開けない。
動揺した魔族の群れがとった行動は、一斉突撃だった。
拳が剣撃となって同胞を八つに斬り裂く。
拳が鉄槌となって仲間を千々に粉砕する。
拳が真槍となって味方を無数に刺し貫く。
たかが人間一人の繰り出す拳に、10万が圧倒されていった。
その数を半分以下に減らすことに、何分かかっただろう。
人間が到達するべきではない境地にまで磨き上げられた一撃は、ただ一度繰り出されるだけで数百、数千を虐殺した。
そうして一度退却できるところまで退却し、後方部隊は既に全滅していることを聞かされたのだ。
どうしろというのか。
武に人生を捧げて人間を辞めた悪魔のような輩相手に、自分達はなす術もなく殺される他に道はないのか。
焦燥感と屈辱に身を震わせる将に、聴き慣れた声が響いた。
それは魔界に住む者なら誰もが頭を垂れ、地に伏し、姿を見ることすら許されないような高みに座す方の声だ。
『諦念は死後に噛み締めよ。彼奴は魔力で身体能力を上げているだけに過ぎない。お前達はゲートを通れぬが、送る方は別であろう。彼奴の魔力が尽きるまで、百千萬の兵を送り続けよう。恨み言は冥土に辿り着いた彼奴の魂にでも吐いてやれ』
ああ、我が王よ。
そのお力を我らの勝利の為に振るわれるのか。
あの悪魔が倒れれば、我らが死せどもそれは勝利となるのですね。
なんと非情かつ合理的で、しかし存分に奮い立たされる言葉なのだろう。
今やこの身は焦燥感や屈辱などという小さなものに震えてなどいない。
目の前にある死という運命に武者震いしているのだ。
否、狂ってしまっただけなのかもしれないが。
そうして正気を失ったように、魔族の群れはクレストへと襲いかかった。
上空にゲートが開き、無数の魔物達が牢獄へと放り込まれる。
表すならば波。幾重にも連なり呑み込まんとする荒波のようだと人は言うだろう。
しかしクレストからしてみれば、雑魚が鯨の口に自ら飛び込むようなものでしかなかった。
群れを率いていたものでさえ、少しばかり珍しい餌に過ぎないような存在。
荒波を拳一つで堰き止めてしまった。
どれだけ高い波であろうと、どれだけ強い衝撃であろうと、その拳は全てを屍へと変貌させ、死を撒き散らして山へと変えてしまう。
イレディア「あの小童が、ここまで強くなろうとはな」
目的を果たした魔王が鏡を通してその光景を見、感嘆の言葉を漏らす。
対して横に立つ魔女は不愉快極まりなさそうな顔をしていた。
サーシャ「目的は終えたのだから、これ以上仲間を殺す必要はないんじゃないの」
鋭い声に動じることもなく、魔王は首を横に振る。
イレディア「いや、あれが死ぬまで送り続けるさ」
サーシャ「馬鹿じゃないの?死体が増えるだけでしょ。もうノクスだって死んでるのに、意味ないじゃない。なんなら私が出て殺しに行ってもいいのよ」
間髪入れず、すぐにでも殺しに行きそうな魔女を魔王は制止した。
イレディア「それでは意味がない、サーシャ。魔術は封じろ。手出しはするな」
硬い沈黙が両者に流れる間にも、魔族の血は絶えず流れ続けている。
もはや山となった死体が流れを相殺して勢いすら殺されていた。
クレストの体は敵が視界から消え去るまで延々と繰り出され続ける。
決して折れない剣、その破壊力は言うまでもない。
さて、送り出した仲間の数はいくつだったか。
とうに百万は超えているはずだが、老騎士に疲れは見えない。
時が夕刻を過ぎても、緩むことはなかった。
イレディアは一度ゲートを閉じる。
サーシャ「………どうするの、あの死体の山の後始末」
イレディア「…………とりあえず後で燃やしてやろう。あの砦は一度入れば死んでも魔界には戻れない場所だからな」
魔女の嘆息を最後に、会話は途切れた。
魔族がこれ以上出現せず、ゲートが閉じられたのを確認したクレストは、ふうと息を吐いた。
とん、という着地音を背後で聞いて振り返ると、鎧も服も破れて腹部が丸見えのルーヴェリアが立っていた。
クレスト「…師よ、私はどこに目をやれば良いのですかな?」
ルーヴェリア「こちらの台詞ですクレスト…その屍は10万どころの騒ぎではないように思えますが…」
クレストはとりあえず自分の持っていたマントを裂いてルーヴェリアの腹部に巻きながら答えた。
クレスト「マルス団長の城砦顕現を使わせていただいたところ、盗み見していた輩がゲートを開きましてな。数で押せば倒せると思ったようです。数十倍は破裂しましたかな」
流石の怪物と呼ばれたルーヴェリアも、これは青ざめものである。
ルーヴェリア「…拳で?」
クレスト「拳で」
末恐ろしい。怒らせないようにしよう。
心の中でうんうんと頷きつつ、ルーヴェリアも戦果を報告する。
ルーヴェリア「こちらはノクスとレイヴを、後、恐らく彼方側の切り札と呼べるような魔物……確か、ロストとか呼ばれていましたね。それらを討ち取ってきました」
クレスト「流石ですな」
マントを巻き終えたクレストは誇らしげに微笑んでいる。
こうしていると、昔を思い出す。
いつの日だったかはルーヴェリアの片腕が飛んでいたのをなんとか鎧で隠したり、潰れた目が周囲の人間の目に触れぬよう包帯を巻いてやったりと苦労したものだ。
下半身が丸々吹き飛んでいた時はどう誤魔化そうか頭を悩ませ、結果的に食糧を運ぶための籠に押し込めたこともあったか。
クレスト「…懐かしいですな」
ぽつりと呟くクレストに首を傾げながらもサフラニアの方面を見る。
じき夜になるが、何の伝令も飛んでこないということは、アドニスの戦線も好調なのだろう。
特に急ぐことはないと判断したクレストが、場に似つかわしくない言葉を吐いた。
クレスト「食事は摂られましたかな?」
ルーヴェリア「あ、そういえばまだでした」
砦の中で火を焚こうとし、しかし辺りは血塗れ。
乾いたものなんて見当たらず火種になるものがない。
どうしたものかと周囲を見渡していた時、ルーヴェリアのいた方から嫌な音が聞こえた。
こう、ガリガリと何かを噛むような……そう、咀嚼音だ。
クレスト「師い!?」
青ざめるクレストが見たのは、その辺に転がった何かの魔族の破片に齧り付くルーヴェリアだった。
ルーヴェリア「…この肉塊、恐らく元は吸血鬼ですね。血の味が濃い。こっちは割と筋肉質で……魔獣、ですかね?」
うむ、そのような方法で元が何の魔物だったかを当てないでいただきたい。
粉々になった魔物の肉塊で神経衰弱をしないでくだされ。
ではなく。
クレスト「せめて火を通してくだされっ!」
そも食用の魔族は出回らなくなって久しいうえ、その体に毒を宿している魔族だって存在するのだ。
不用心に口にして良いわけがない。
ルーヴェリア「確かに、火を通せばクレストも食べられますね」
あ、なんか嫌な予感がする。
クレストはすぐさま防御体制をとった。
刹那、砦内で見事な爆発音を起こしながらルーヴェリアの火炎魔術が"暴走"した。
クレスト「…元から荒野であるのに、更に焼け野原にして如何なさるおつもりで…」
やはり調理は苦手だ。
ほとんどの肉が炭になってしまった。
クレストが心労と頭痛で暫し俯いていることなど意にも介さず、ルーヴェリアはとりあえず炭を払えば食べられそうな肉片を見つけてクレストに差し出した。
ルーヴェリア「感触的に熊型の魔獣の肉です。火は間違いなく通っているので安心して食べられますよ」
そうではないのです師よ…加減というものを覚えてくだされ……何年生きていらっしゃるのか……。
クレスト「ははは…有り難く頂きましょう…」
ああ、ディゼン団長。
せめて貴方が我が師にお茶を淹れる程度の魔力に抑えられるよう鍛えてくだされば、今も残っていた自然が多かったでしょう…。
更に言えば、騎士団の厨房が爆発したり団長専用の個室が吹き飛んだりして国庫に大打撃を与え、当時の宰相が胃薬を毎日倍量飲むことも無かったでしょうな…。
苦くもあり、温かくもあり、そんな空気は魔術を通じて送り届けられた伝令の声に破られた。

ワルド
まあ普通につえーもんな

天月 兎
第三十二話 後編
「お姉ちゃん!」
突如鼓膜が感じ取った懐かしい声に、つい動きが止まってしまった。
ルーヴェリア「アリー…」
かつて村が滅んだ時に死んでしまった、大切な妹アリューシアの声だ。
「もう頑張らなくていいのよ」
「お前は十分やったじゃないか」
母マリアベルと、父ライゼスの声もする。
喋っているのは、目の前のこの骸骨だ。
ルーヴェリア「ノクスの死霊術か、よくもこんな下劣な真似を…!」
怒りを孕むその声とは対照に、体は微動だに出来なかった。
マリアベル「またそんなに傷だらけになって、私をどれほど心配させたら気が済むのかしら」
ああ、近くの山で小型の魔獣相手に立ち向かい、ボロボロになって帰ってきた日にも同じことを言われていた。
ライゼス「俺に似て力持ちなのはいいんだがなぁ、無茶苦茶なことをするところは誰に似たんだか」
困り果て、やれやれと首を振っていた様が目の前に浮かんでくる。
でもこれは、ノクスによってつくられた偽物の筈で…。
アリューシア「ねえお姉ちゃん、騎士団に入ったってことは、離れ離れになっちゃうよね?ね、寂しいから3日に1回はお手紙ほしいな!」
違う。偽物なら、こんなこと言わない。
明らかに、あの時交わした約束で、一言一句違わないところを鑑みるに、この骸骨に宿っているのは間違いなく私の家族だ。
あの時守ることのできなかった、家族たち。
鞘を握る手が降りる。
糸に巻かれた腕だけで宙吊りにされたまま、だが振り解くことが出来ない。
だって私は謝らなくてはいけない。
守れなかったことを。
死なせてしまったことを。
ルーヴェリアが口を開きかけた時、言葉を発することも許さないというように、骸骨達が話しかけてくる。
アリューシア「ねえお姉ちゃん、私が倒れてきた棚の下で泣いていた時、どうして助けに来てくれなかったの?」
マリアベル「何のために私達家族の反対を押し切ってまで騎士団に入ったのかしら?」
ライゼス「妻やアリーが死んだのは、魔族に太刀打ちできなかった俺の力不足だったのか?」
違う。違う違う違う違う。
ルーヴェリア「お父さんの力不足なわけがない!村の動けない人の分もって沢山魔獣を倒してたのはお父さんだって、私知ってる。本当に力不足だったのは、私、で…」
助けられなかったあの日の記憶が蘇る。
業火に包まれた村、思うように動いてくれない体、せせら嗤う魔女の声、助けてと響いた、妹の…。
微かに動くこともしなくなったのを好奇と見たのか、蜘蛛の糸はルーヴェリアを六つ並んだ頭部の上にぶら下げた。
それぞれの頭が各方向に伸び、裂けた中央部からワームのような口が覗く。
その様を、ルーヴェリアが見ることは出来ない。
あの日の景色が、瞼の裏に染み付いて離れないあの光景が今眼前に広がっている。
ごめんなさい。
守れなくてごめんなさい。
力不足でごめんなさい。
本当に守らなくてはいけなかった貴方達を、家族を殺してしまってごめんなさい。
私が至らなかったから。
私が弱かったから。
私が…。
体が餌を待つワームの口にゆっくりと降ろされていく。
そんなルーヴェリアの耳に、いつかの仲間達の声が響いた。
ディゼン「また下向きやがって、ケツ引っ叩くぞ」
コルセリカ「そんな過去があったから、今こうして強くなったんでしょ?」
マルス「あーあ、国を守って欲しいって言った俺の意思は継いでくれないのかぁ…」
冥界の門から次々と現れる魂を、ノクスは制御できずにいた。
閉じた筈だ、彼奴の家族の魂を呼び出した後、閉じた筈だ。
なのに何故開いている!?
ノクス「閉じろ、閉じろって!」
何度魔力を注いでも、門は閉じかかるが僅かに開いたままだ。
まるで誰かが必死にそれを押し返しているように。
テオ「おいおいあんたら、それだけでいいんすか!?もっと声かけてやってくださいよ!」
あれは、先日死んだルーヴェリアの仲間の一人だ。
あれが門を閉じるのを遮っているのか。
ノクス「救われることのない魂よ、我が意に従い彼の者を封ぜよ!」
悪霊達が一斉にテオの周りに群れるのを、白い霊魂が蹴散らしていく。
ナギ「邪魔なんかさせねえぞ!俺の師匠にあんな顔させたお前ら魔族を、俺の精霊様も許さないって言ってるからなぁ!」
陽光のような光は彼方此方を駆け巡って悪霊達を消し去っていく。
クワイア「師匠、背中ガラ空きじゃないですか」
この子は50年前共に戦った、クレストの妹だ。
そして、一人の魂がルーヴェリアを背中から抱きしめた。
ソーリャ「ルーヴェ、貴女が私みたいに過去に縛られているのは知ってる。その苦しみがどんなものかも、私は知ってる。でも今守らないといけない人達が貴女を待ってるのよ」
閉じかかっていたルーヴェリアの意識がはっきりとする。
──大丈夫、意思を継ぐ限り独りで戦わせはしない。
温かな声が聞こえる。
ワームの口が閉じる寸前、ルーヴェリアは鞘で喉粘膜を思い切り突き、反射的に自分を吐き出させた。
そうだ、私は独りじゃない。
意志を継いで戦うことで自分にしか出来ない葬送とすると決めたあの日から。
この魔装具達を身に付けると決めたあの日から。
私は独りで戦っているわけじゃない!
腕に絡む蜘蛛の糸を引きちぎり、ロストの頭部を蹴飛ばして地面に転がる剣を取る。
マリアベル「皆さん!間に合って何よりです!」
ライゼス「ギリギリ時間稼ぎ出来たな!」
アリューシア「酷いこと言ってごめんねお姉ちゃん!私たちでこいつの動きを止めるから、思いっきりやっちゃって!」
ルーヴェリアは強く頷いて剣を正眼に構える。
ノクス「クソ!どうなってるんだ!」
テオ「教えてやるよクソ野郎」
驚いて振り返るノクスの頬を、テオの霊魂がぶん殴る。
不意を突かれたのもあって尻餅をつくノクスを見下ろしながら、テオは簡単に説明した。
テオ「あんたからの呼びかけがあった時、ルーヴェリア様が障害になってるからどうにかしたいんだろうってすぐに分かった。だからあの人の家族捕まえて、ありったけの酷い言葉を浴びせてあんたの思惑通りに動くよう伝えたんだ。その間に、俺が歴史書で見た名前の人たちをかき集めて、門が閉じる前に外に出したってわけだ」
死者の魂に意思があるってのは知ってるだろうに。肝心なとこでヘマしたな、と笑うテオにノクスはわなわなと震えながら掴み掛かる。
ノクス「お前だって未練があるから応えたくせに!」
その手は軽々と振り払われた。
テオ「あ?あー、まあ王女様残してきちまったからな…そりゃ心残りだよ。他の人たちも、永遠の時間を生きることになるルーヴェリア様が"心配"だったから応えたんだ。恨み辛みばかりが未練じゃねえよ」
ロストの両腕が自身の胸元にある髑髏を掻きむしるような動きをする。
恐らく中に入った霊魂が暴れ回って妨害し、制御不能に陥らせているのだろう。
自分に向かって炎や氷の息を吐き出し、何とかして追い出そうと必死だ。
その度に自分が傷ついていることにすら気が付かずに。
ルーヴェリア「…私が言うべきなのは、謝罪ではありませんね」
ふっと笑ったルーヴェリアが地を蹴った。
ルーヴェリア「対象認識、概念具現化、斬撃術式展開…」
揺らめく大地。
──百裂き!!
行手を阻む百足の胴の継ぎ目に合わせて無数の斬撃が放たれ、文字通り百に砕かれる。
概念具現化とは、言葉に宿る意味がそのまま具現化される術式だ。
自分にかけられた呪いを解くために必死に魔術の研究をするうちに出来るようになった副産物ではあるが、強力な術である。
ロストは骸骨含め頭部が九つ。恐らくそれぞれが元は一体の魔物だったのだろう。
内二つは停戦交渉の際、魔王に付き従っていた宰相だから間違いない。
魔族に慈悲をかけるつもりも、情が湧くこともないが、死して尚こんな姿にされ侮辱されるのは、僅かではあるが哀れに思う。
故に。
ルーヴェリア「砕破!」
頭部に向けて具現化の術式を使い砕き伏せる。
尚も此方に向かってくるのは、やはり核というものが存在しないからだろう。
だが、頭を潰したおかげか奴の体は再生しなくなった。
今ならば。
地面、空中問わず縦横無尽に駆け巡り、爪を、腕を、毒牙を剥き出しにする蛇達を、内に潜むワームを、全てを切り裂きばらけさせる。
そしてありったけの魔力を込めて世界を断絶させている壁の天井をぶち破った。
ノクス「は!?」
使われたのは既に死んだ魔物だろう。
なら行先は冥界に他ならない。
ルーヴェリア「地獄より燃え立つ劫火よ、哀れな魂の拠り所を焼き尽くし、その魂を冥界へと誘い給へ!」
力技でこじ開けられた天井から爆炎の柱が降り注ぎ、ロストの身を焦がし、燃やし、灰燼に帰していく。
誰もが思わず目を閉じるような光が辺りを照らす。
ゆっくりと目を開く頃には、世界を隔絶する壁は消え失せ、いつもの景色が戻ってきた。
自分を助けてくれた霊魂達の姿はもう無い。
ルーヴェリア「皆さん…有難うございます」
夕焼け空に呟くと、地に膝をついて呆然としているノクスの元へと歩いていく。
ノクス「そんな…あり得ない…こんな…」
壁が破られたことも、死霊術を極めた自分を差し置いて冥界や地獄の門を開かれたことも、受け入れ難かった。
これじゃ、どんな顔して向こうでレイヴに会えばいいか分からない。
ルーヴェリア「…人間に似た姿にもなれたんだな。まあいい……私の家族に苦労をかけさせた罰だ。精々苦しみながら死ね」
冷淡な声色が具現化する。
ノクスの体はあり得ない方向に何度も何度も捻じ曲がり続けるが、不死者の特性でその程度なら治ってしまう。
じっくりと聖なる光に身を侵されながら、ノクスは声にならない声を木霊させる。
殺してくれと叫んでいるようにも聞こえなくはないが、そんな慈悲など持ち合わせてはいない。
ゆっくりと、確実に死に至っていく魔物を背に、夕焼け空の向こう側を眺めた。
他の戦線はどうなったのだろう。
此方は思っていたより時間がかかってしまったので、当初の予定より作戦時間は大きく遅れていることになる。
ルーヴェリアは急いでクレストの元へと向かうのだった。

モン。

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