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キタダ
(キタダヒロヒコ「K」)
過ぎられ=よぎられ


キタダ


キタダ
サンスクリット語で「光」を意味するのだと教えてもらった。
15年前にあの歌を書いたとき、それでこの言葉が降りてきたのか。
納得した今日。
とむらへば灰あをぞらにながれゐて光といふことばが口を衝く キタダヒロヒコ


キタダ
昨日、けふのさかひを知れるひともなく海雪白う降れる海ナ坂
前世は暖簾だつたのだ ある風のつよき日をさう思ひたかつた
その年に雪解け水だつたひとがいまわれに来てうつくしと言ふ
(キタダヒロヒコ「前世」)
傾ぐ=かしぐ


キタダ


キタダ
牀前ニ風ヲ看ル
この安全地帯は
わたしの息をくるしくさせる、
たえまなく吐き出す熱 あの窓に
ぶつかつては墜(お)とし 蜂のやうに
曇つた死骸が降り積もり
不快は目にみえないから
すつかり掃いてしまへ。
夜の風よ
夜明けの風よ
深夜の大気よ
微粒の すみきつた楽譜の 非常なピアニシモの
わたしの 赤裸の頬の 自由を
あかるい魂の
可能性を、
わたしの神に晒せ。


キタダ
カウントダウン
女子高の隣りの
二年後に何度も訪れるアパートの前の
夜の
おいしい店
けものを水のやうにほどいた肉を
あたたかく口に入れてゐる
わたしの二十四歳
わたしをしらない人
たぶん東武の男
高い塔を幻視して
もう浅草にゑがいた
太陽の周りをあと三十回
カウントダウンに気づかず
目の前の
拒絶にも
気づかず
花やしきの
コースターで
がたがた頸椎を鳴らす
わたしの二十歳
モルヒネのやうに
詩を注射してゐた
卒業式のあと
四十年後も建物だけ残る森永ラヴで
隣りに
座り
どうして目を逸らすのだ
もつとうまくやれる
わたしの十七歳



キタダ
あの目障りな風車の群れが
ここからなら見えないことに気づいた
遠ざかるほどにどこからでも
嫌でも目につく目障りな風車だ
ここはすぐとなりの町やが
町境のひくい山が目隠しになってくれとるのだ
おれは快哉を叫んだ
どこまで離れてもついてくるあの風車どもが
ここなら見えぬ
近いゆえに見えぬ
してやつたり――とおれは思つたのだ
航空写真で奇跡の富士とかいうのを見た
おれにはどうにもよさがわからぬ
そこにあるのはただ火山の典型で
おれにはその美がおそろしいばかりだ
フジツボのやうな富士
転倒した比喩を嘗め廻して
ぬめぬめした生体が
殻の底から今にもせりあがる気がするのだ
今日は畏友中原の生誕の日。


キタダ
キタダヒロヒコ
鬼の夕べ
毎日貴女が乗る電車の上に
架かつてゐる橋がある
古い堅固な橋である
隣には
むかし色恋沙汰で燃えた宿の跡がある
おれはハンドルを握つてゐた
さまよつてゐたのだ
かなしい自由に呑まれてゐた
いつのまにか なぜだか
足が遠のいてゐた店を
はげしくなつかしく思ふ
それは理由がある
あの日のおれをはげしく憎み悔ひそしていとほしみ
きゆうにウインカーをその店へ曲げ
わたしはわかつてゐる
ただ知らないだけである
わたしは
どうして
こんなに不安定で
不条理なものを強く硬く造らせたのか
おれはその事が受け入れられず
鬼を目覚めさせてしまふ
声を剥がすやうに月に叫ぶ おれは無音である
やがて無音に帰すまでの歴史を生きてゐる
ちがふか
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