倒産急増「日本のパン屋」の事情(1)日本にパン好きは多いが、町のパン屋は危機を迎えている――。東京商工リサーチによると、2023年度、町のパン屋の倒産は過去最多の37件に上った。実は2019年度にも、倒産件数がそのとき過去最多の31件(帝国データバンク調べ)となり、話題になっていた。倒産が増える要因としてよく指摘されるのは、物価高やロシア-ウクライナ戦争による小麦価格の高騰、原油高、人手不足や人件費の上昇といったコスト高だ。パン屋はもともと、薄利多売の商売である。私はこれまで大手メーカーを含めてパン屋の取材を10年近く続けてきたが、よく聞くのは、「儲けようと思ってこの商売を始めても続かない」という言葉だ。大量生産が前提のメーカーですら、手作業の要素を残す場合があるなど、製造に手がかかるほか、発酵食品ゆえの手間もある。もちろん、冷蔵庫で長時間発酵させるなど、労働時間を短縮する努力を進めてきた個人店も多いが、基本的に煩雑で体力が必要な仕事であることは変わらない。そのうえ、近年は、インストアベーカリーを始めるスーパーが増え、焼き立てパンを売りにするなど、ライバルが増えている。加えてパンはロス率が高い食品でもある。近年は、古くなったがまだ食べられるパンを扱うビジネスも増えたが、全体から見ればごくわずか。前述の各種要因のほか、実はこのロス率の高さに、倒産が増える要因があると私はにらんでいる。そしてもう1つ、考えられる別の理由がある。この2点について、掘り下げたい。食事パンより菓子パン・総菜パンが人気ロス率が高くなる背景に、日本特有の事情がある。パンを中心的食糧にしてきたヨーロッパでは、古くなったパンの再利用方法が発達している。フレンチトーストやパン粉、クルトン、ラスクのほか、日本ではあまり見かけないが、国によって「クネル」「クネーデル」などと呼ばれる団子に加工し、食べる料理もある。それができるのは、再利用されるパンがシンプルな食事パンだからである。