1. 序論1.1 歴史的背景と動機回転する天体の形状は、Newton (1687)以来の基本的な問題である。Clairaut (1743)やMaclaurin (1742)による古典的な理論は静水圧平衡を記述するが、相対論的効果は含まれていない。一方、GPSなどの高精度観測では一般相対性理論の検証が可能となっており(Ashby 2003)、重力・運動・回転効果を統一的に扱う必要性が高まっている。本研究では、シュヴァルツシルト計量の弱場展開から出発し、既存のポスト・ニュートン形式および測地学的アプローチに沿った形で、これらの効果を単一の有効ポテンシャルにまとめる試みを行う。このアプローチが、観測データとどのように対応するかを複数の独立した系で検証する。1.2 等ポテンシャル面の問題古典的な測地学では、基準楕円体は平均海面を近似する経験的な面として扱われてきた。このアプローチは実用的には有効であるが、以下の問いが残されている:1. なぜ等ポテンシャル面は楕円体形状をとるのか?これは数学的な必然なのか、単に便利な近似なのか?2. 相対論的補正は、回転体の幾何学的形状にどのように影響するのか?特殊および一般相対論的効果を単一のポテンシャル定式化に統合できるか?3. 表面の幾何学形状と内部の質量分布の関係は何か?密度構造は観測可能な扁平率にどのように影響するか?4. 中性子星や系外惑星のような特異な天体の形状を、完全な数値相対論に頼ることなく第一原理からどこまで予測できるか?1.3 従来の理論的アプローチ既存の理論的枠組みは、いくつかの異なる手法でこれらの問いに対処してきた:古典的静水圧平衡理論 (Chandrasekhar 1969) ニュートン重力に遠心加速度を加え、平衡形状を解く。ゆっくり回転する天体には有効だが、相対論的補正を完全に欠いている。計算は比較的単純だが、GPS衛星のような高精度応用には不十分である。ポスト・ニュートン・パラメータ(PPN)フレームワーク (Will 1993) アインシュタインの方程式を v/c や GM/(rc²) のべき乗で展開する。厳密ではあるが、通常は各補正項を個別に扱い、単一のポテンシャルに統一していない。これにより、異なる効果間の相互作用を直感的に理解することが困難となる。数値相対論的流体力学 (Cook et al. 1994; Stergioulas & Friedman 1995) 回転する構成に対してアインシュタイン方程式を数値的に解く。正確だが計算負荷が高く、楕円体形状の根底にある数学的構造への物理的洞察が限定的である。また、パラメータ空間の広範な探索には適さない。測地学的Clairaut理論 (Heiskanen & Moritz 1967; Lambeck 1988) Clairautの方程式を通じて、表面の扁平率を内部密度分布に関連付ける。経験的には成功しているが、楕円体を「導出」されるものではなく「与えられたもの」として扱う。つまり、なぜ楕円体なのかという根本的な問いには答えていない。1.4 本研究の目的と新規性本研究では、以下の点を試みることで、上述の限界に対処する定式化を提案する:1. 理論的統一性: 弱場展開から特徴的な係数(速度項の3/2、回転項の1/2)を自然に再現し、既存のポスト・ニュートン処理(Will 1993; Ashby 2003など)と整合させる。2. 数学的必然性の証明: 等ポテンシャル面が小パラメータ ε = Ω²a³/(GM) の二次まで楕円体形状をとることを、仮定ではなく導出として示す。3. 内部構造の統合: 非一様な密度分布を考慮したClairaut型の構造因子を組み込み、観測可能な扁平率を内部組成に関連付ける。4. 多角的検証: GPSの時間遅延、惑星扁平率(地球、火星、木星)、中性子星や系外惑星の予測という独立したデータセットに対して検証を行う。5. 残差の物理的解釈: 火星の残差を、重力的扁平率と幾何学的扁平率の区別により解釈し、地質学的情報抽出のツールとしての可能性を示す。本研究の新規性は、これらの要素を既存理論と矛盾しない形で統合し、計算上の利便性と物理的洞察の両方を提供する点にある。1.5 本論文の構成第2章で有効ポテンシャルの導出、第3章で楕円体形状の数学的証明、第4章で内部構造の統合、第5章で観測比較、第6章で極限領域への応用、第7章で限界と展望、第8章でまとめを述べる。