パンは焼き上がるまで決して同じ姿を見せない 特にハードパンは気まぐれな天候と共に生きる芸術品だ 今日の生地は昨日よりゆっくりと膨らみ窓から入る風に身を震わせているようだった 「今日は湿度が高いな」と呟きながら 捏ね上げのタイミングを変えてみる パン作りで学んだのは数値通りにはいかない「風土の味」だ フランスの田舎パンは現地の水でなければ再現できないと言われるようにここで焼くパンもこの街の空気が育てる唯一無二のもの 焼成が終わり金網の上でパンが弾ける音を立てる 表面には季節の表情が刻まれている夏は深い焼き色、春は薄い皮 一口噛むたびその日だけの香りと食感が広がる パンとの対話は自分が生きる場所との対話でもあるのだ#今日の1枚#パンとの会話#ハードパン#風土の味