#野口晴哉#病人と看病人しかし昔は病気さえ使えばもっと要領よく、人の気に障るようなことを言わないで暮らせたと思うが、仮病を止める決心をしてからは、どうしても病気を使えない。「ちょっと腹具合が悪かったので失礼した」と言えば穏やかにすむのに、「貴方の顔を見たくないから止めた」とか「嫌だったから行く気がしなかった」とか言わざるを得ない。「馬鹿だ」と、よく言われたけれども、「馬鹿でも、自分に嘘をつくよりはいい、俺は仮病を止めたんだ」と思ってそのまま通した。そのように仮病を止めたら本物の病気もやらなくなってしまった。人には「病気にもならない体は異常だ,風邪を引いて鈍い体を丈夫にするのだ」などと言うが、自分はどうかなとヒョッと思った。やはり病気というものは自分以外の人がやるものだといつの間にか決めてしまって、自分は忘れている。そうすると病気にもならない。お菓子屋さんが自分の店のお菓子をしょっちゅうつまんでいたら少しも欲しくないようなもので、まあ病気とは、そんなものだろうと思う。