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みおこんぼ
アキオくんから聞いた話。
アキオくんと私は、大学で知り合いました。
田舎者と思われるのが嫌で、大学デビューを果たしたアキオくんは、とにかくチャラくて声が大きくて馴れ馴れしくて……私とは縁のないタイプの男性だと思っていました。
ところが、不思議なことに、このアキオくんは大人になった今も交流があります。
そんなアキオくんが、この間会ったときに「悪いけどマスク外してくれない?俺さ〜、マスクをしている女性、今めちゃくちゃ怖いんだよね。」と、言い出しました。
詳しく話を聞くと、彼は昔と変わらぬ大きな声で話し出します。
新型コロナウイルスも5類になり、段々職場でもマスクを外す人が多くなる中で、頑なにマスクを外さない女性がいたそうです。
名前はハルナさん。
大人っぽい雰囲気で、きっとマスクを外したらめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁと、アキオくんは密かに狙っていたのだそうでした。
ちなみにアキオくんは、大学時代から女性関係が派手で、得意の話術を駆使して様々な女の子をナンパしていました。大人になってもそれは変わらなかったようです。
ハルナさんはおっとりしながらも、仕事はテキパキこなすキャリアウーマンで、隙がなさそうに見えましたが、ある日会社の飲み会で口説き落としが成功してLINEをやり取りする仲になりました。
「こうなればもう、こっちのものっていうか……まあ、最終的に、そんな流れになってさぁ。」
そんな流れ、というのはまあ、つまり男女の仲ってことなんですけど。
「実は、デート中も飲食しないし、マスクを一切外してくれなくて。それであの日、初めてみたんだよね、俺。ハルナさんのマスクの下。」
アキオくんが、ハルナさんのマスクを外すとそのマスクの下の顔には。
◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す
✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね
びっしり、赤いペンで隙間のないくらいに、書いてあったんだって。
絶句するアキオくんに、ハルナさんはにっこりして。
「これ、書いといたら、大嫌いな上司の前でもニコニコしていられるよ?オススメ。」って、言ったんだそう。
それ以来アキオくんは、女性のマスク姿を見ると、あの文字が浮かんじゃって、もう、怖くて仕方ないんですって。
これは、アキオくんの実話です
#GRAVITY百物語
#私の実話シリーズ
#番外短編


みおこんぼ
「鍵盤の魔」①
アキオくんから聞いた話。
アキオくんは子どもの頃、今で言う毒親から教育虐待を受けていたんだそうです。
習い事は週5で入っていて、友達と遊ぶ暇もなく、家では母親からずーっと監視されて、勉強の日々。スポーツも妥協を許されず、更にはピアノまで。朝から晩まで休まる時間が無かったそうです。
私もアキオくんのピアノ、頼み込んで1度だけ弾いてもらったことがあるけど、本当に上手なんですよね。
アキオくんは普段チャラチャラしてるから、黙ってピアノを弾いてた方がモテるかもしれないよって言ってみたんだけれど、アキオくんは「できればもう、ピアノは弾きたくないんだよなぁ。」って。
「こんなに上手なのに、勿体無いよ。」と言う私に、実は……と、アキオくんがこんな話をしてくれました。
中学2年生の時に、大きなコンクールに向けて有名なピアノの先生の厳しい指導を受けていたアキオくん。
毎日過酷なレッスンを受けて、寝る間もなく練習していたので心身はボロボロだったそうです。
「あの時期、スポーツは指を怪我するかもしれないからってそっち系の習い事は全部辞めさせられて、その分ピアノを弾きなさい!って。母親は鬼みたいでさぁ。参ってたんだよね、ほんとに。だからアレは、俺の見間違いかもしれないんだけど……。」と、アキオくんは前置きして続けます。
その年、有名なピアノコンクールで、順調に勝ち進んだアキオくんはついにファイナリストになっていました。
「もちろん母親は大喜びで、更に練習が厳しくなって。でもさ、ある時俺、見ちゃったんだよね。」
何を?と、私が聞くと、アキオくんが真剣な顔で言います。
「鍵盤から滲み出てくるの、不気味な小人が。」
「小人?」
「うん。ついに頭がおかしくなったと思って、笑いながら練習したよ。小人を叩き潰すように弾いて、実際小人もグシャグシャ潰れて……まあ、幻覚だって自分でも思ってたんだけど。」
それから、しばらく黙り込んだアキオくんに、続きを促します。
②に続く
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