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風ささ
高く 高く 風よ
砂を巻き上げろ
埋め尽くしてしまえ
空を 白く 白く
その激しい砂嵐の先に
誘われて向けるだろう 足を
魂を探す キャラバンを真似る
羽を持たない生は
それでもまだ
遠い彼の地の渇きを覚える

風ささ
手を広げて十字の身を
海深く放り込もう
怖くはない海は
抱きとめてくれる
苦しさの奥のやり終えた呼吸
海の人柱は波に弄ばれ
風のオルガンは波を奏でる
そのフーガに心を高めながら
けれど耐えることが出来るだろうか
心に浮かぶ人の面影もなく沈む
暗い海底は身も心も闇にとかす

風ささ
海は大きなオルゴール
低い音高い音
優しい音もおおらかな音も
消え入りそうな最弱音
すべての音色をそろえている
この星が生まれてからの
たくさんの音を詰め込んだ
誰の耳にも心地よく響く
心に住んでいる子守歌
生きられた時間しか知らない
その経験にすがるだけの
僕は無力だ

風ささ
魂が憩う
まだ見ぬ島があるのなら
僕はそこを目指すだろう
けれど水平線に島はない
来る日も来る日も
ここに座っていた
時折風が舞い上げる
白い砂にまみれて
魂はジャリジャリと苦く
噛み締めることも厳しくなった
目を凝らしたこともあったさ
僕だけの島が
見えたような気がして

風ささ
穴を開けた白い巻貝は
きっと波に鋭い牙を立てられた
その瞬間に命までも
持っていかれてしまったのだ
生を思い返す間もなく一気に
その魂は その後
水平線のむこうから
帰って来る気配はない
白い抜け殻に
いくら熱心に
呼びかけようとも

風ささ
背中から優しく
抱きとめてくれる人がいれば
羽など望まなかったのかも知れない
あなたは羽を持たない人
飛んでゆけずにこの浜辺に佇む人と
その言葉にすがり夢を見ることもない
けれど優しい人はいない
空と砂浜との狭間に羽を広げようと
張り裂けそうな心を葬る術を捜している

風ささ
砂に文字を書く
その文字を持ち去る波の群れ
綺麗になった砂の黒板に
また指で文字を描く
連れ去られる文字は
どこへゆく
美しい心をなぞっても
海の藻屑となるのか
海のしょっぱさは
数知れぬ後悔の言葉 その涙
僕の言葉もそこから生まれ
そこに帰ってゆくものに
他ならない

風ささ
潮風にいつまでも
吹かれようと思った
あの白い雲のように跡形も無く
顔が引きちぎられるまでを
波がきっと
真っ白な珊瑚になる僕を
さらってくれる
けれど微塵も顧みない風は
自分の仕事のままに吹きすぎる
ここに残された僕の耳に
せめて歩み出す方角を
教えてくれたらいいのに

風ささ
波でつま先を洗う背中に
天使の羽が生えたなら
その羽を広げ空に駆け上がるだろう
羽根の落ちるところに
幸いが訪れるとしたのなら
請われるがまま
どんな場所にも飛んでゆく
けれどこの背中には羽がない
貧相な背中を恥ずかしさに丸め
羽ばたきのために集まった
風に晒される
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