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「山姥」③

リィィィン

走ろうとした私は、絶望していました。身体が全く動かないのです。
そんな私を、弟が不思議そうに見ています。
(動ける、の?ああ…そうだ、この子は特別だった。)
弟は、お寺が養子に欲しがるほど、特別な子ども。

リィィィン

次の瞬間、小屋の、小窓がスーッと開かれ、青白い腕が出てきました。顔を背けたくても、身体が全く動きません。

何を思ったのか、その時。
弟が、私の手を離しました。
(馬鹿…!馬鹿!!行くな!!!)
突然、腹の底から怒りが湧いてきました。
理由はわかりません。
自分の内のどこから湧くのか、深く激しい怒りでした。それがあっという間に全身を支配した時、ピクッと、右脚が動きました。(脚が動く…!)と、悟った私は。

小屋に向かって行こうとする弟を、奇声を上げて思い切り蹴り倒していました。

突然のことに、弟は吹っ飛び、空気を震わせて激しく泣きます。
その瞬間、鈴の音のような音も消え、異質な空間が、何もかも元に戻ったようでした。
今だ!!と、弟を引き摺るようにしてその場を離れます。無我夢中でしたので、そこからどこをどう逃げたのか、覚えていません。
気がつくと、泣き喚く弟の声を聞いて、慌てて探しにきた姉と兄がいました。弟が、普通の子どものように泣く姿を見たのは、それが初めてのことでした。

その後帰宅した私は、弟を泣かせたと姉と兄から責められ、しょんぼりしたことを覚えています。
当の弟は、すっかり泣き止んでまたいつものぼんやりした、あの浮世離れした表情に戻っていました。

あの時、あのまま弟が小屋に行ってしまったら、どうなっていたのでしょうか。

これは私の実話です。

※雪虫は、北海道民にしかわからないかもしれませんね。秋口から冬にかけて、粉雪のように舞う、綺麗な虫です。雪かな?と手に取ると虫なので、びっくりすることもありました。

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「山姥」①

弟の話をします。
弟は生まれつき、少し特別な子どもでした。
いつもどこか上の空で、何を考えているかわからない。座らせたら座りっぱなしで動かない……。まだ、この世に馴染んでいないような、不思議な子ども。当時母は、とても心配していました。

そんな弟ですが、お寺に取られそうになったことがあります。「後継者として、ぜひ養子に」と、遠縁から一時期頻繁に声がかかりました。母がそれを拒んでいなければ、そういった道に進んだ子どもだったのです。

だからでしょうか。弟と居て、遭遇した怪異は3つあります。
どれも私にとって、忘れ難い出来事です。
今回は、そのうちの1つを語りたいと思います。

小学2年生の頃、私は北海道のとある島に住んでいました。島民はみんな顔見知りの、小さな島です。豊かな自然に囲まれたその島には、山姥が住んでいるという噂の、低い山がありました。
私の家は、丁度その山に面していました。
その山は子どもが、冬にしか登れない山でした。というのも、山に登るには、広く生い茂る笹薮を越えなければならなかったのです。
笹薮が、深く雪で埋もれた時のみ、子どもの体重でその上を通過することができる。大人が通過しようとすると、笹薮に拒まれる…そう、言われていました。

ある冬の日のことです。
深々と雪が降り積もったので、姉と、兄と、私と、弟で山へ遊びに行きました。お尻の下に米袋を敷いて、山の斜面を滑る遊びが大好きだったのです。スノーウェアを着て、4人で山へ…。今思うと、親は子どもの遊びに寛大でした。海も川も、子どもだけで自由に遊びに行っていたものです。
ただ、山へ行くときだけは「夕方になると山姥が出るから、早目に帰りなさい」と言われていました。

雪で埋もれた笹薮の上は、なんだかフワフワしていて、その上を歩く特別感だけでも楽しく、4人で笑い合いながら渡りました。
子どもだけの特別な遊びの時間は、あっという間に過ぎ去り、いつの間にか少し日も陰ってきていました。

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