人気

ハ月
女というのは、秘密を守れない。というより守るのが性格的にいやなのだ。しゃべらせられた、という形で告白するのが好きなのだ。女の告白衝動というものは矯めがたい本性の一つである。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
時には、自分をニック・アダムスに仕立てあげる森をさまよい川を登る。ソバ粉のパンケーキも焼いてみた。ソバ粉七に小麦粉三の割り合いで溶いたものが、一番僕の口に合う。パパ殿はそれにリンゴジャムをはさんだらしいが、僕にはちと甘すぎる。きっとリンゴの種類が違うのだろう。酸味の強いクッキング・アップルならいけるかもしれないが、日本では手に入らない。
そこで僕は、カナダ産のメイプルシロップに、生のレモン汁とで代用することにした。酸味と甘味が絶妙で、ソバ粉のパンケーキには中々いける。ヘミングウェイが生きていたら、絶対に教えてあげるんだけどね。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「セクシーになろうとすればなれないわけでもないのに、その努力をしない女はアウト」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「思い出ってものは、わざわざ出かけて確かめるものじゃないよ。そっとしておこうよ」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
ねえ、教えて。
どうして私が好きだなんて言えるのか?
何でもいいから、もう少し、理解できる言葉が欲しいのかな。
『疼くひと』松井久子

ハ月
新しいグラスが二人の前に置かれる。ピアノを取り囲むカウンター席は満員だ。ボックスの方にも空きはない。時刻は午前零時三十分。大人の時間帯だ。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
彼女はいつも手紙をその時間に書いたのだった。
『花のような人』「幼なじみ」佐藤正午

ハ月
別れることにきめてから、わたしは一そう彼が好きになった。こっちは別れると思っているのにそれを向うが知らないというのはたまらずいい気持である。おまけに、いやで別れるんじゃなくて、好きでたまらないのに別れるなんて、たとえようもなくいい気持である。
『苦味を少々』田辺聖子

ハ月
けれども、何かがどこかで決定的に欠落してしまったような感じを俊介は拭えないでいた。男と女の関係で、感性が決定的に違っていたら、だめなのではないだろうか。アルデンテをシンという女は、だめなのではないだろうか。
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
あのとき僕はひとつ先のショーケースに飾られたブーケを見ていた。真っ白な、鈴のようなかたちの、小さな花。見ているうちに僕はその花束を手にした君の姿を空想していた。なぜだかわからない。君にとても似合う花だと感じたのかもしれない。それで、その香りを確かめたくて思わず歩いたのです。君から離れたのではなくて、未来の君のほうへ一歩近づいたのです。
『花のような人』佐藤正午
もっとみる 
新着

ハ月
「で、俺さ、さすがに反省して。クリスマスの朝、目覚めてふと外を見ると一面の雪だった。外へ出て、庭一杯に"I LOVE YOU"と雪の上に描き、ミエを起こした。"ミエ、俺からの心からのプレゼントだよ、ちょっと見てくれよ"
ミエは眠い眼をこすりながら、窓の外を見た。"プレゼントって、どこにあるのよ?"おそろしく現実的な声で彼女が訊いた。"あれさ"と俺が指差した。庭一面の〈I LOVE YOU〉。
ところが彼女の顔色が変わったんだ。"何よ、あんなもの"それからすごい剣幕で、俺にくれたバカラのグラスを片っぱしから壁に叩きつけ、ひとつ残らず割ってしまったね。"あたしは、バラの一本でも良かったのよ。あたしのために、あなたに何か贈りものを買ってもらいたかったのよ"
"俺、ミエのためにホワイト・クリスマスを贈ったんだけどな"
"調子いいこと言わないでよ。もし偶然に雪が降らなかったら、どうするつもりだったの。窓ガラスに〈I LOVE YOU〉って描くの!ケチ!"
それで終わり。グラスのすさまじい破片だけを残して、彼女は出て行った。永遠に」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「……あのとき、そのシャツ、ドレスに合わせて、きみは試着室のなかで、髪のスタイルをすこし変えたのだ」
片岡義男『きみを愛するトースト』

ハ月
「そうでしょうね。服を買うのは、好きだったわ。もっとも手っとり早い、自己実現だから。新しい服を買って着ると、自分が、なにかになったような錯覚があって、その錯覚は、充分に陶酔的なのよ」
片岡義男『きみを愛するトースト』

ハ月
きれいなうしろ姿のきみは、あの光景にじつによく調和していた。あまりにも調和しすぎていて、ぼくは、不憫に思った。年下のぼくが、不憫に思った。なぜ、不憫かと言うと、あまりにも似合いすぎている。その風景から、いつまでもきみは抜け出すことが出来ずに、そのまま埋もれてしまうのではないか、という思いが誘発されてくるからだ
片岡義男『きみを愛するトースト』
(この引用の下に当時の自分のメモ有り)
……
彼から見た私がこんな風に映っていたら悲しい。「その風景から、いつまでもきみは抜け出すことが出来ずに、そのまま埋もれてしまうのではないか」という一文に、自分の今を重ねてしまった。自分のやりたいこと、目標、将来の夢、持ち合わせている資格などが、果たして今いる地で叶うのか、役立つのか、このまま過ごしていて将来、大丈夫なのかと。隣にいる彼の横で、彼のために笑い続ける道を、本当に選んでいいのかと。それがやりたいことなのかと。まだ間に合う。私だけの、大切な人生を、ちゃんと本当の意味で考えて、行動しなくてはいけない。
……
2021.1.25のスケジュール帳からメモを発見。
おそらく、お互いが恋に恋していたんだ。
世界は必ずしも恋人がすべてじゃない。
あの頃はただただ彼について行くことしか出来ず、このまま結婚して、扶養に入りパートでもするのかと思っていた。
なんだか閉じ込められた気分だなって、思っていた。
ところがそんな未来はあらず。
私もかつての恋人ももうとっくに自由です。
今の私にこの一節はスコンとも響きません。
多分、あの頃より心は豊かです。
幸せ、とは言いません。きっとあの頃もそれはそれで幸せだったので覆したくないから。
幸せだっただろう過去を、比べてつらかったな、、なんて、過去の私が救われない。
だから、今の方が、あの頃よりよく眠れます。

ハ月
「手料理で安く上げて女を口説こうなんて、やることが小っちゃい小っちゃい」
『デザートはあなた』森瑤子

ハ月
「だったら止めとけ。あのな。パトロネージってものは、勇気でやるもんじゃないんだ。あれはシャレなんだ。粋な大人の遊びなんだよ、俊介。おまえには逆立ちしたって手の届かん世界だよ」
『デザートはあなた』森瑤子
もっとみる 
関連検索ワード
