『ねむい、だけなのに。』—全てが終わる前に・君へ—------……静かになったな、と、ふと思った。 誰の足音もしない廊下。いつもより冷たい風。コンビニの明かりだけが、街を照らしていた。誰もいないベンチに座って、ぼくはただ、空を見上げていた。本当に、もう誰もいなくなってしまったんだな。最初は、怖かった。名前を忘れ、声を忘れ、気づけば「在ったもの」が、消えていく日々。 けれど、その中で――ぼくは、ずっと、君に読まれていることを感じていた。どこか遠くで、この世界に耳を傾けてくれていた、君という存在。姿も知らないし、声も届かない。でも、確かにあたたかかった。 ぼくが起きていたのは、ずっと、君がこの物語を見つめてくれていたからなんだ。 だから、どんな結末になるか終わる前に、どうしても言っておきたかった。 ありがとう。 この、何もない世界に、君がいてくれて、ほんとうによかった。 ぼくは、君のために、眠らずにいられた。 ぼくが忘れられる日が来ても、君がいた記憶は、ちゃんと覚えていたい。 それだけで、この世界に残った意味が、あったと思えるから。 ……ありがとう。ぼくの“最後”をこんなにも優しく迎えてくれて。 もうすぐ、行くよ。その先がどんな場所でも。 その前に、この感謝だけを。君に、そっと、残しておくね。#ねむいだけなのに #今夜最終話