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「あつあつを召し上がれ」小川糸著

この短編集は、食事を題材とすることの多い小川糸さんらしい作品がぎゅうぎゅうになっていて、とくにこの中の”さよなら松茸”という短編がとても心に染みてしまった。

これは10年同棲したふたりが、お別れをする前に決めていた能登への旅行を最後の時間として過ごす内容なんだけど、これが自分の心にとても効いてくる。よく効いてくる話ってどうしたら効いてくるのかな?真実に似ていればなのか、自分の経験に似ているかなのか…

“手を繋いだり、新しいお店を探したり、同じ本を読んで感想を言い合ったり、テレビを見たり、お風呂に入ったり。今まで当たり前のようにあったそういう時間も、二度と戻らない。これからは、別々に暮らす。もう、能登空港の売店で好物のサバ寿司を買って帰っても、一人では食べきれない”(62pより)

なんで失恋とか、浮気とか、そういう本があって、わたしたちはそれを読むのだろう。なんでわざわざ胸がつまるような、知らなくてもいい言葉や気持ちを味わうのだろう。人生だけでも充分にいろいろあるのに、自分ではないところの物語にまで入っていくんだろう?

現実の別れってのはいつだって雑で、生々しくて、曖昧だ。もしかしたら小説がもたらすのはそんな曖昧な痛みへのちょっとしたウォームアップだったり、新しい物語を手にすることで手にする記憶の上書きなのかもね。

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