朝いちばんに目覚めたとき、空気がもう、じっとりと重かった。何も言わずに蝉が鳴く。夏が心に踏み込んでくる。机の上には、飲みかけのコーヒー。微かな香りが、過ぎてゆく時間だけを教えてくれる。夏の暑さが、こんな心ごと全部、焼き尽くしてくれたらいいのに。居間のカーテンが、ゆっくりと膨らんで、しぼんで、また膨らむ。風があるのに涼しくない。熱を運ぶ、名ばかりの風。まるで、もう届かない言葉のようだった。あの星空を、並んで見上げたあの夏を、私はまだ忘れられない。汗も笑いも、全部、もう過去形になってしまったのに。つかのま、涼菓を口にふくむ。じゅわりと溶ける冷たさが、やけに甘くて切ない。あなたを思い出すたびに、言葉にできなかった想いが溢れそうになる。いくつもの太陽が、まぶたの裏に焼きついている。あなたを知らなかった頃の私は、水たまりに映る空ばかり見ていた。いまはただ、あなたが映らない場所ばかり探している。夏の朝が、どうしても苦手になった。最後に見た横顔と、あの言葉が、夏空に溶けて残っている。風が吹いても、忘れられない痛みがある。きっと、まだ心が手放せていないのだ。冷たくなったコーヒーの入ったカップを持ちながら、ただ、窓辺に座る。夏はいつも、懐かしさのかたちをしてやってくる。そして決まって、あなたを連れてくる。ガラス越しの世界が、少しゆれている。陽炎かもしれないし、心の温度かもしれない。思い出は、風鈴の音のように、心の中で鳴り続ける。昨日と同じようで、少しだけ違う今日。焼けた地面、草いきれの匂いが、なぜか心を落ち着かせてくれる。あなたのいない世界で、“今”の匂いに包まれて、ようやく諦めて少し呼吸ができる。旅に出ようか、それともこの部屋にこもろうか。どちらを選んでも、夏は等しく、あなたの記憶を連れてくる。あついあついなつがきた。#あついあついなつがきた#ことばりうむ納涼詩会#夏のあいうえお作文2025