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くりねずみ

くりねずみ

「精神病院の恋」

​見知らぬひとがやってきた
頭のおかしくなったこの家で、私の部屋を分かちあうために
鳥のように狂った少女が

​彼女の腕、その羽飾りで、扉の夜にかんぬきをかける。
迷路のようなベッドにまっすぐ横たわり
彼女は、入り込む雲で、天さえ拒むこの家を惑わす

​だというのに 彼女は悪夢のような部屋を歩き回り 惑わす、
死者のように野放しで、
あるいは 男子病棟の 想像の海を乗りまわす。

​彼女は取り憑かれてやってきた
跳ね返る壁を通して幻惑の光を招き入れる、
空に取り憑かれ

​狭い寝床で眠りながらも 彼女は塵の中を歩き
気の向くままにわめき散らす
私のさまよう涙で擦り減った 狂人病院の床板の上で。

​そして ついに、やっとのことで 彼女の腕の中で光に抱かれ
私はきっと 受けるだろう
星々に火を放った 最初の幻視を。

ディラン・トマスの詩で、例に漏れず彼特有の強烈な生命エネルギーに満ちた詩。彼の一番有名な作品「穏やかな夜に身を任せるな」にもまったく引けを取らない。

印象的なのは各行のシラブルが5、10、5、10……というリズムで厳格に組まれている点。この窮屈で四角四面な雰囲気は、精神病院という場所の閉鎖性を見事に印象づける。まるで牢獄みたいだ。

脚韻はスタンザ(連)を超えて踏む連鎖韻で、滑らかに繋がっているというよりは詩全体を鎖でがっちりと縛っている感じ。特に有声歯擦音zのグループ「birds(鳥)」「clouds(雲)」「wards(病棟)」「skies(空)」「tears(涙)」「stars(星)」はザラザラとした手触りで、しかも直前の子音や母音が全然違うので、なんとなく爪が引っかかっているような気分になる。たとえて言うなら卵のヒビのような……しかし最初に書いたように、トマスの詩は力強いので、このヒビからダイナミックなエネルギーが飛び出して、殻を粉砕するようなイメージが湧いてくる。

詩の中に出てくる女性は、本物の女性というわけではなく、もう一人の自分と解するのが良いと思う。彼女の「狂気」は、現実の物理的な壁や制約(ドア、壁、狭い寝床)を無意味化し、想像力によって宇宙的な力(大空、雲、光)とつながることを可能にしている。
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