共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

ハシオキ龍之介

ハシオキ龍之介

昭和懐古録 # 322

#グラビティ昭和部


・昭和10年(1935年)

☆『宮本百合子、窪川いね子ら検挙』

5月6日 袴田里見(22)が本郷の街頭で検挙さ
れてから丁度二ヶ月目に同人のハウスキーパー
田中うた(27)が運命尽きて遂に視庁特高課の手
に捕縛され、続いて七日、四・一六事件の被告
で一昨年秋の銀行ギヤング事件当時まで活躍し
てゐた前名清家齢事若松齢(22)も当局の網にか
かり、更に宮本顕治の妻で昨年春検挙、病気の
ため釈放されゐた女流作家宮本百合子(36)も十
日朝検挙された(東京朝日)。
6月 戸塚署楼上の特高室で去る十一日宮本百合
子との関係から検挙留置されてゐるプロ作家窪
川いね子(32)(のちの佐多稲子)が転向の手記な
らぬ小説の原稿を書いた。左翼凋落の秋とはい
へ留置中の「赤の容疑者」に原稿を書かした事
は当局としては破格の温情だ。彼女の夫君鶴次
郎氏はかねて胸を病んで健造(六歳)達枝(四
歳)の二児と母親の五人の生活費はいね子がペ
ンで稼ぎだしてゐることとて検挙と同時に一家
は全く窮乏、糧道を絶たれた家族の歎きはさる
事ながら、喜んで一家のこの責任を負ってゐた
いね子は更に困惑、一家を思みては清算手記も
進まず悶々としてゐた。この悩みを知つた係員
は最初は法のため止むを得ぬ事態として見てる
たが、窪川一家の窮状を察知するに及び又検挙
当時二三枚書きかけてゐた小説のある事を聞い
て心から同情、つひに本庁特高課に報告した結
果「見て見ぬ振り」の原稿執筆を許す事になつ
たもの。かくて歓喜したいね子は去月二十日
頃から連日猛烈なスピードで毎日手記を半分、
小説を半分と書きつづけ、病夫鶴次郎氏は毎日
これを持ち帰つては浄書して一両日前漸く脱
稿、某婦人雑誌社へ送った。六十枚のこの小説
は前途に希望のない無気力なサラリーマンの生
活的不安をテーマとしたもので留置中の作とし
ていね子の一生を通じての記録ともならう。十
七日、同署楼上で書き綴つてゐた「闘争経歴」
約百枚の手記が昨十六日で完成したので、難し
い転向その他の問題は兎も角として午後六時一
先づ身柄を釈放された。
(東京朝日)
GRAVITY
GRAVITY14
話題の投稿をみつける
関連検索ワード

昭和懐古録 # 322