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アッチャー

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掌編・不純情小説
【届いた柿の味】(全5話)

③冒険の結末(後)

 今日のことは黙っていよう…目をあわせたふたりはそう示し合わせたつもりだった。
 しかし、商店街で事件を起こして逃亡したことへの罪悪感に耐えられるほど、幼いふたりの心は強くなかった。
 夕食のあと、幸代の母が哲生の家を訪れ、そこで全てが露見することになった。幸代の様子がおかしい、何があったのか本当のことを話して欲しいと言われ、哲生はあっけなく全てを白状した。
 哲生の母は、幸代の母に繰り返し頭を下げて詫びた。哲生はその場で父に怒鳴られた。

 翌日の午後、哲生と幸代はふたりの母親たちに連れられて、ペット店を訪れた。そして四人で店主に謝罪した。
 床に落とされた亀は、体のどこかを傷めたかもしれないので売り物にはならないと聞かされ、哲生の母が落とした水槽ごと買い取ることになった。店主が、子供向けの亀の飼育のガイドブックを哲生に手渡してくれた。

 哲生の冒険は失敗に終わった。成長の証としたかったことが、かえって未熟さを顕わすことになった。別々のクラスになった幸代と共有体験を重ねておきたいという無意識の目論見も、彼女を怯えさせ疲れ果てさせてしまうという、期待とは真逆の結果となってしまった。
 ペット店の店主がくれたガイドブックを、哲生は一字一句暗記するほど読み返しながら、岩みたいな甲羅の亀を飼い続けた。幸代が亀を見たいと言うことは二度となかった。

        ④(赤い小箱の痛み)へつづく

©️2024九竜なな也
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