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アッチャー

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掌編・不純情小説【舐めた野郎だ】
前編 #note より

女は男の浮気を見抜く鋭い嗅覚を持ち、男は鈍感で簡単に女に騙される。確かにそれはあたっているだろう。
だが、女だってボロを出す時はある。

俺はカズの店で飲んでいた。カズとは古いつき合いだ。彼はベテランのバーテンダーで、うまいカクテルを飲ませてくれるだけでなく、長年の経験からか人の本性を見抜くことにたけている。そんなカズに俺は一目を置いていた。

「こんばんは」

安美が店に入ってきた。そろそろ来る頃だろうと、俺は彼女を待っていたのだ。

「やあ。来るだろうと思ってたよ」

「あら、嬉しい。お昼にも会ったのに、またあたしに会いたくなったの? 知らないわよ、瑞穂さんに気づかれても」

安美はカズの店の常連だが、俺は昼間に彼女とよく会っている。安美は、法人向けに資産運用のコンサルティングをしている俺の、お得意先の社長秘書なのだ。今日も、社長とのランチミーティングに安美が同席した。

「その瑞穂のことで聞きたいことがあるんだ」

俺は待ちきれない心持ちで、席に腰掛けたばかりで上着も脱いでいない安美に問いかけた。

「え?どうしてあたしに? あたし、瑞穂さんのことなんてよく知らないわよ。こことか、リッキーの店で二、三回会ったことがあるくらい」

安美は怪訝な顔をしながらカズにカクテルを頼んだ。「あいよ!」というカズの陽気な返事が場を和ませてくれた。俺は安美に気をつかう余裕もなく尋ねた。

「そのリッキーと瑞穂のことだよ。二人はつき合っていたことがあるんじゃないか?」

「へ? リッキーと瑞穂さんが? それっていつの話?」

安美は驚いた顔で聞き返してきた。
カズは無言でライムを搾っている。
俺は自分を落ち着かせるために、左手をかけたままだったグラスを持ち上げて、ウイスキーを一口飲んだ。ゴクリと喉が鳴った。

(つづく)
©️2024九竜なな也
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