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アッチャー
ホテルを出て表の通りまで行くとバス停が見えた。その方向へ歩きかけた時、多香美が思いついたように言った。
「ねえ。朝市に行ってみない?リバーサイドマルシェっていうの。あたしコーヒーが飲みたいわ」
「朝市でコーヒーが飲めるのか?」
「ええ。飲めるわ」
この町は中規模の河川を挟んで都市部と農業地帯に分かれている。農業地帯では特にこの土地ならではの特産物があるわけではなく、一般的な野菜類が多品目生産されていた。安定した気候と水質の良さからか、この地でとれる野菜は品質が良いと評判で、首都圏に出荷されて高い値で取引されていると聞いたことがある。
数年前から、地産地消による町の活性化や食育
の推進を目的として、都市部の川岸に造成された広場で、週末の早朝に農産物の即売会が催されるようになった。
リバーサイドマルシェと呼ばれるこの朝市には、都市部で営業しているカフェやパン屋なども出店し、地元産の作物を使った料理なども販売されていた。
俺がこうした経緯を知っていたのは、このイベントを知らせるポスターの制作を請け負ったことがあったからだ。しかし関心のある分野ではなく、俺にとっては数ある請負業務のひとつだった。早朝ということもあり、今まで一度も足を運んだことはなかった。俺が仕事で絡んだことがあることは、今は多香美には話したくなかった。
リバーサイドマルシェは、二人が泊まったホテルから上流の方向に歩いて行ける距離にあった。
多香美に導かれて、家族連れで賑わう農産物売り場を抜けていくと、ボックスカーを利用した臨時のコーヒーショップがあった。アウトドア用のテーブルが数席、露天に設置されていた。その一つに多香美を座らせて、俺は二人分のコーヒーを注文しにいった。
ボックスカーの荷台から延長された店には、50 年代のアメリカを舞台にした映画にでてくるような、レトロでポップなラジオが置かれていて、それに似合うロックンロールの曲が流れていた。アメリカのオールディーズをコンセプトにしたカフェを駅前で営業しているのだと、店の人が教えてくれた。
俺は注文したコーヒーを待つ間、多香美は他の誰かとも、ここに来たことがあるに違いないと考えた。
(つづく)
©️2024九竜なな也

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