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マヌガ氏または無敵税
この原稿手に入れたのはね、はっきり覚えてますよ。十八年前の夏ですよ。まだまだその時は今みたいな狂いそうになるような暑さはなくて、まぁ昔に比べれば過ごしにくいなぁと感じるくらいのね。そういう感覚ありましたでしょう。
頻繁に会ってた男がいましてね。まぁそいつは所謂、好事家でしてね。なんというか妙な曰くがあるような物品を片っ端から集めて回ってるような変人でして。まぁ私も人の事は言えませんけどもね。そいつとよく■■辺りの飲み屋でその集めたガラクタやらを見せてもらったりしてね。まぁ面白かったですよ。
これは一家心中があった家にあった人形でそれを子供がどこかから拾ってきた時から家族の様子がおかしくなっただとか、これはある一族に代々伝わる呪いの面だとか。まぁそういう話を嬉しそうに話すんですよ。それがなんというかおかしくてね。だって明らかに普通じゃないでしょう。
そいつがね、八月の盆暮れ辺りに道端でばったり会った時にこっちに飛びかかる様に見せてきたのがこの原稿ですよ。
凄い物が手に入った。とにかく話を聞いてくれ。と鼻息を荒げながら迫ってくるもんですからまぁ聞いてやるから落ち着けとその時住んでたアパートに連れていったんですね。
そこで原稿を詳しく見せてもらってね。
まぁあなたも今こうして見てる訳ですけど、一番目立つのはここの染みですわな。
茶色く濁ってますよね。なんとなく察しているとは思いますけどこれはまぁ血痕だそうで。
正直大したもんではないです。この血痕はね。
問題はね、書いてある文ですよ。
「時は過ぎ、季節は春。昼にもなればふと夏の気配がちらりと見えてくるような時分。」
書き出しはこうなっている。書き方からするにまぁこの前にも何枚かあるんでしょうね。ざっと四枚目辺りでしょうかねこれは。
おや、気付きました?そうなんですよ。ここね、消した跡があります。滲みから見て二回は書き直している。
しかも形を見るに、今読んだ書き出しとは全く違う事を書いてあるように思える。でも何が書いてあるかは分かりませんな。
でも好事家の彼はそれが分かったそうで。
元は■■■の田舎の方に住んでた爺さんが趣味で書いてた小説の一頁だったらしくてね。
書いてる途中で死んじまって、書きかけのそれは孫が引き取ったそうなんだけども。
まぁそこからどうやって譲り受けたかは詳しく聞いてません。
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マヌガ氏または無敵税 投稿者
でもね、一つ掴んでいる事はありますよ。 好事家の彼、ばっと出ていく前にこんな事を言ってましたよ。その時も勿論白目を剥いてましたね。 「爺さんは逃げたが俺は逃げないよ。」 それを思い返すとね、一つの推論ですけども。 この原稿ね、さっきは四枚目辺りだとか適当を言いましたけども。恐らく一枚目なのかなと思いまして。 これを書いていた爺さんは、それこそ何かに書き記しでもしないとどうにかなりそうな「何か」を体験した。 それを無我夢中で。全てを洗いざらい書き連ねようとした。 でも途中で思い直した。 これは痕跡になってしまう。これを書く事により「何か」はまた自分を見つけてしまう。
マヌガ氏または無敵税 投稿者
もうぐちゃぐちゃに腐ってたそうでね。よく分かりませんよね。 解散した後、家に置いてかれたこの原稿を手に取ってふとあの時の彼の様子を思い返しましてね。 自分でもなんで不思議に思わなかったのか、今でも分かりませんが。 その時の彼がね、ずっと白目を剥いていたんですな。 少なくともその日出会ってからずっと。白目を剥きながら私と応対していた。それでこの原稿の「曰く付きの品」としての素晴らしさを語っていた。
マヌガ氏または無敵税 投稿者
だから、爺さんは筆を止めた。 これまでの文を乱暴に消して。なんの当たり障りの無い、何気なく書いた小説の一頁という事にする為に。 あの一説を書いた。 「何か」を欺く為に。 まぁ失敗したんでしょうがね。 普段から小説書くような生活してるもんだからどうしても書きたくなったんでしょう。書いてはいけないと分かっているような事でも。 そして好事家の彼もまた趣味人だ。なんとなく波長が合ったんでしょう。だから気付いた。そして同じ目に遭った。 まぁ、全部私の妄想ですよ。 真に受けんでくださいね。 そういう思い出のある、ってだけのただの汚い原稿ですよ。これはね。
マヌガ氏または無敵税 投稿者
まぁなんだかんだ丸め込んだんだろうけども。 その孫に見せてもらってる時にその消した跡に、そして何が書いてあったのかに気付いて即座に譲り受けると決断したと言ってましたね。 いやぁ、分かりませんよ私には。 ぐちゃぐちゃと書き殴ってるようには見えますけどそれ以上はね。 でも彼は気付いたと言い張ってね。 なんか、「続きを書きたい」なんて言い出してましたよ。解散した後から暫く家に籠ってたらしいですけど、そこからは会ってないのであくまで風の噂ですがまぁ死んじまったみたいで。 万年筆握りしめて、自分の額に突き刺してたそうですよ。 不思議な事に死亡推定時刻がね、発見時の二日前とかだったそうなんですけども。
マヌガ氏または無敵税 投稿者
でもね、それはそれで嫌な感じがしますけども。それは大した問題ではないじゃないですか。 問題はこれですよ。この書き出し。 たった四十文字程のこの文章の部分だけに書き直した跡がある。 その後は平然と続きを書いていて最後の部分だけ血痕で隠れている。 こんな書くのに三分もいらないような部分を書いている間に何があったのか。それですよ問題は。