厚労相・上野賢一郎　「力強い支援」の裏に潜む影

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塩分

2025/11/08

厚労相・上野賢一郎　「力強い支援」の裏に潜む影　

高市早苗内閣が発足して半月余り。厚生労働大臣に抜擢された上野賢一郎氏（60）＝自民・滋賀2区＝の就任会見は、穏やかな笑顔とともに「全世代型社会保障の構築」を強調した。物価高騰で苦しむ介護現場への支援、年金制度の持続可能性――これらを「力強く進める」との言葉は、聞こえはいい。だが、就任直後から噴出した政治資金の私的流用疑惑が、その言葉の重みを試している。官僚上がりで税制のプロと評される上野氏が、厚労省の巨大な難問にどう向き合うか。国民の生活を預かる大臣として、期待と不安が交錯する。　

上野氏の経歴は、典型的な「省庁エリート」の一本道だ。京都大学法学部卒後、旧自治省（現総務省）で地方税制を担い、2005年に衆院初当選。財務副大臣として税制改革を主導した手腕は、財源確保の議論で光る。厚労分野は、衆院厚生労働委員会の筆頭理事経験が主で、今年6月の年金改正法修正に携わった実績もある。10月30日の報道インタビューでは、物価上昇対策として「職員処遇の改善を力強く」と語り、高市首相の経済対策指示を盾に具体策の検討を約束した。予防医療の推進も熱を込めて触れ、自民党の関連議員連盟会長として「病気の予防を政策の中心に」と意気込む。　

しかし、ここで現実の壁が立ちはだかる。インタビューの言葉は立派だが、具体策は「これから打ち出す」の一言に終始。介護・福祉現場の賃金支援は、診療報酬の前倒し改定で対応する方針だが、財源は結局、税負担増に頼る公算が大きい。11月7日の国会質疑では、生活保護の追加給付をめぐる最高裁判決無視問題で野党から追及され、曖昧な回答に終始した。X（旧Twitter）では、れいわ新選組の天畠大輔氏が「いのちの砦裁判」での謝罪を求め、上野氏の対応を「冷酷」と痛烈批判。こうした現場の声が、厚労省の構造的硬直性を象徴している。
　
さらに、就任直後のスキャンダルが痛い。10月26日、しんぶん赤旗が報じた政治資金収支報告書の不備――スナックや焼き肉店での飲食費、茶道クラブの会費、果ては力士への労い花火代まで、政治資金から支出されていた疑いだ。総額は不明だが、上野氏側は「政策打ち合わせの経費」と釈明。2022年の党支部交付金840万円未記載問題に続く失態で、X上では「税金で花火大会か」との嘲笑が広がり、13,000件以上の「いいね」を集めた。ワクチン副反応対応でも、10月31日の会見で「全例評価済みで重大懸念なし」との事務方丸投げ回答が炎上。IWJ記者の指摘に対し、逃げ腰の姿勢が「無能」の烙印を押している。　

これらを冷静に見つめれば、上野氏の強みは財務畑の現実主義にある。社会保障給付費が年1兆円超増加する中、「能力に応じた負担軽減」を掲げ、連立政権合意に基づく現役世代支援を進めるのは理にかなう。だが、弱みは現場感覚の薄さだ。労働時間規制の緩和を「過労死ラインの上限検討」と漏らした発言は、産経新聞で報じられたものの、Xユーザーから「国民の命を軽視」と反発を招いた。政治資金の影が払拭されない限り、政策の説得力は失われやすい。　

上野大臣に問いたい。インタビューで介護従事者に「感謝し、活躍の場を」と語った言葉は本気か。厚労省は、ワクチン被害者の救済や生活保護の裁量逸脱を放置してきた「ブラックボックス」だ。税制のプロなら、財源を確保しつつ、負担増ではなく透明な分配を優先せよ。国民は綺麗事ではなく、実行を待っている。高市政権の命運を握るポストだけに、上野氏の次の一手が、政権の鏡となるだろう。期待を裏切らぬよう、影を払拭する覚悟を。