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ネイビー
会社に到着すると、社員証のネームプレートを首に下げながらエレベータに乗り込んだ。
まだ始業時間より少し早いせいか、俺以外は誰もいない。
目的階のボタンを押そうとした時に、その整然と並んだ丸いボタンを見てふいに思い出した。朝からこのジャケットを見る度に、ふと思い出しかけては霧散していた事の正体。
そういえばこのジャケット、袖のボタンが一つ取れかかっていたんだ。
このジャケットを着なくなったきっかけはそれだった。失くしてしまう前に、ボタンを付け直そうと思っていて、そのまま忘れて夏を越したんだった。
俺はエレベータのボタンを押す為に伸ばした右手を、ボタンを押した後にそのまま肘を曲げて袖先を確認した。だが、ほつれていたのは右の袖ではなかった。
ん? 勘違い? 左か……そう考えながら左の袖先を見た時に、背中に冷たい何かが走った。
そんな……そんな馬鹿な。
両袖とも、ボタンは全てきっちりと縫い留められていた?
コロナで、友人を家に上げる事は滅多になかったし、招き入れた友人の中に、クローゼットの中にあるジャケットのボタンをわざわざ縫い留め直してくれるような律義で器用なヤツは誰もいない。
じゃ、このボタンは一体誰が、いつ縫ったというんだ?
どういう事だ?
見覚えのないカードといい、このボタンといい、まるで記憶の一部がスッポリと抜け落ちてしまっているような感覚だ。
頭の中の混乱は収束しないまま、エレベータは目的の階に到着し、ドアが開いた。
ジャケットはこれだけじゃない。他にも何着か持っている。ボタンが取れかけていたのは、きっと別のジャケットだ。そうだ、多分勘違いだ。
俺は自分をそう納得させながら人気のない廊下に出て、とりあえずオフィスへ向かった。
つづく
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