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ミルトン

ミルトン

我が家の節分では、めずらしく父が頑張っていた。

父は家業である洋服屋をとても大切にしていたから、豆まきも真面目にやっていたのだ。

まず店に、父は「鬼はー外!福はー内!」と近所に聴こえるような大きな声で豆をまいた。

しかしどこの家でも近所に聴こえるような大きな声で豆をまいていたのだ。それが昭和だった。

店の次は居間、二階、それからひとりひとりの部屋へと豆をまいてゆく。

僕の心配は、はたして鬼のような強い怪物が、豆なんかでやっつけられるだろうかというものだった。

「とうちゃん、本当に豆で鬼をやっつけられるの?」

「大丈夫だ、思い切り当てればやっつけられるぞ」

「当てられなくて襲って来たらどうするの?」

「その時はとうちゃんがやっつけるさ!」

とうちゃんがそう言ってくれてやっと安心できたのだ。

僕の部屋に行き、父と僕とで大きな声を出して豆をまいた。

他の家ではまいた豆を後で掃除するだろうが、うちではしなかった。

虫が湧くかもしれないが、うちでは掃除しないことになっていたのだ。

父は豆の力を、真剣に信じていたのかも知れない。

店に関することとなると、父はどんなことにもすがった。

家族みんなで、年の数だけ豆を食べる。

「おばあちゃんは84粒も食べられていいな!」

「そんなに食べられないよ。ミルトンにあげるよ」

「わーい、ありがとう!」

豆はそんなに美味しくなかったが、食べたくてしょうがなかった。

僕の年の数だけじゃたりなかったのだ。

自分の部屋に行って、寝ることにする。

部屋に落ちている豆を、拾って食べるのが最高に美味しかった。

ひとりでベッドに入ると、鬼が入って来ないか不安になった。

大丈夫だ、とうちゃんが鬼をやっつけてくれる、そう思ってしだいに眠りに落ちていった。





短歌

節分に年の数だけ豆たべる「私17粒だね」と母
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